「……どうすんだよ、これ。俺達はどうすりゃいいんだよ……」

 ディオリストラスが髪をぐしゃりと握り、悔しげにこぼす。
 シャルルギルもイリオーデも黙ったままそれには答えない。それ故に静寂に包まれた部屋に、ようやく動きがあった。

「とりあえず、マクベスタとリードと……後ここの王にもこの事を言いに行こう。ただいなくなるのと書き置きを残していなくなるのとなら、後者の方がずっとマシだろうから」

 シュヴァルツがおもむろに立ち上がり、扉の方に向かう。しかし酷く動揺している三人はその場から動かない。
 はぁ……と大きくため息をつきながらシュヴァルツは振り返る。駄目な大人達をキッと睨み、少年は言い放った。

「いつまでうじうじしてんだ大人共! おねぇちゃんのお願いを無視して探しに行く訳でもなく、おねぇちゃんのお願いに従って治療活動する訳でもない! そんな体たらくでアミレス・ヘル・フォーロイトの私兵を名乗るつもりか? 全くもって烏滸がましい!!」

 ピクリ、と三人が少し反応する。それを見逃さなかったシュヴァルツは更に畳み掛けた。

「おねぇちゃんが命懸けで頑張ってるんだよ? それなのに自分達は何もしないとか……ぼくだったら絶対に嫌だね。そんなの自分が情けなくて恥ずかしくて死にたくなる!」

 件のアミレスと同じか更に歳下のように見える少年の喝は、これでもかと言う程に大人達の心に刺さった。
 ゆらゆらと立ち上がりながら、大人達は覚悟を決めた。

「……ああそうだな。自分が情けねぇよ……俺はあの時あのガキを信じるって決めたんだ。それは今も変わんねぇよ」
「王女様が帰って来た時にがっかりされないよう、俺も沢山の人を治さないとな」
「…………王女殿下の命令に逆らう訳にはいかない。私は、王女殿下の命を確実に遂行するのみだ」

 やっとか、と肩をすくめたシュヴァルツは気持ちを切り替えてマクベスタとリードの元へ向かった。
 幸いにも身支度を整え終えているマクベスタとリードが共にいたので、説明も一度で済んだ。
 ただその際、マクベスタとリードがまるで絶望したかのような面持ちになった。まぁ、一国の王女が一人で未知の病をどうにかするなどと言って姿を消したのだから当然である。
 彼等にも色々とシュヴァルツからの喝が飛んでいたのだが……この時、誰も予想出来なかった事態に陥った。