「っ! 皆、書き置きみたいなの見つけたよ!!」

 片手で紙を掲げ、三人を呼ぶシュヴァルツ。それに勢い良く反応する三人。
 中でもイリオーデが人間離れした反射神経と瞬発力でシュヴァルツの元に駆け寄った。

「それで、内容は!?」
「えっ? う、うん。えっとね……」

 詰め寄られたシュヴァルツは戸惑いながらも書き置きを読み上げた。

「『草死病《そうしびょう》の原因を何とかする為に暫く別行動します。これは誰の責任でもないので誰も咎めないでください。ここから先は皆へのお願いです。絶対に私を探さないでください。私がいなくても治療活動はしてくれると助かります。身の危険を覚えたり皆が草死病《そうしびょう》にかかった場合は迷わず自分を優先してください。絶対に原因を何とかするので、私が凱旋した暁には今度こそたくさん褒めてください。最後に……私のお願いを全部、ちゃんと聞いてください。それじゃあ頑張ってきます! アミレス』…………だって」

 何となく、これを書いている時の本人の表情が思い浮かびそうな文章であった。
 しかしこれを読み終えたシュヴァルツの表情は無に近く、ディオリストラスとイリオーデとシャルルギルのそれは……困惑と後悔に近いものだった。

「〜〜ぁああクソッ! あのガキまた一人で全部背負い込もうとしやがって……ッ!!」

 ディオリストラスが怒号を上げながら床を強く殴る。

「王女様はどうしてそんな無茶を……」

 シャルルギルが眉根を下げ呟く。

「…………っ」

 イリオーデは無言で血が出る程下唇を噛んでいた。
 命の危険すらある無茶を平然と繰り返す十二歳の少女に、彼等はどれだけ歯がゆい思いをした事だろう。
 大人しく守られていて欲しいのに全く守らせてくれない幼い王女に、彼等はどれだけ地団駄を踏んだ事だろう。
 しかしその思いは届かない。極悪非道、傲岸不遜、冷酷無比、慇懃無礼、傍若無人……そんな血筋と自負する彼女はその思いを拒否する。
 そんな優しさは私には相応しくないから………とか何とか言って。
 自分がそれらからかけ離れた存在である事に本人は気づかない。そして気づかないまま彼等の心配を受け取り拒否してしまうのだ。
 ……人の厚意を簡単に無下にしてしまう辺りは血筋らしいと言えばそうなのだが。
 そんなアミレス・ヘル・フォーロイトの自分勝手な暴走に巻き込まれた男達は、どうすればいいのかと頭を抱えた。
 本来であれば、私兵なのだから主を探すべきだ。だがその本人から絶対に探すななどという書き置きを残されてしまったのだ。
 どう行動するのが正解なのか分からない──……それが、彼等の正直な気持ちであった。