「……それじゃあ教えて欲しいな。僕には何が出来るのか」

 この言葉を待っていたとばかりに、少年はニィッと唇で三日月を描いた。

「──おねぇちゃんの盾になれる。おねぇちゃんを支える柱になれる。無情の皇帝とやらや神々でさえも彼女に手出し出来なくなるような、最強の後ろ盾……今のぼくには無理だけど、君ならなれるでしょう?」

 ドクン、と心臓が大きく鼓動する。

「勿論決めるのは君だ。リードは彼女の期待に応えたいって思ったんだろ? 期待を裏切りたくないって思ったんだろ? ならば、これも選択肢の一つとしては十分だとぼくは思うよ」

 シュヴァルツ君はにこにこといつもの笑顔を作った。先程までの邪悪さは何処に消えたんだと自身の目を疑うぐらいの変わりようである。
 ──僕の人生の目標として、僕は聖人と同等の強さを目指す。
 ──僕の人生の使命として、僕は彼女を支える後ろ盾と成る。
 ……あぁ、なんて面白そうな人生なんだ。これまでとは違って、達成しがいのある目標と使命。嫌悪感もなく、前向きになれるような生きる理由だ。
 いつの間にか僕の頬は緩んでいた。まだ決めた訳では無いけれど……でも、確かにこの目標と使命なら全然いいなと思えてしまったからだ。

「…………ありがとう、シュヴァルツ君。前向きに検討しておくよ」
「あは、いい返事を期待しておくねぇ」

 こちらに向けられていたパイプを受け取り、僕はお礼を述べた。シュヴァルツ君はその言葉を最後に、スキップしながらどこかへ行ってしまった。
 一人残された僕はもう昇り始めている太陽を見上げ、考える。
 人を癒す事しか出来なくて、誰の期待にも応えられないような僕だけど……いつか他にも色々出来るようになれたらいいな。
 何より──お転婆なお姫様を守る盾とか、男としては最高の栄誉じゃないか。