──この程度で弱音を吐くな。おぬしは余の跡を継ぐ者なのだぞ。

 ……僕には無理だよ。

 ──おぬしには才能がある。天より主が下賜してくださった偉大なる力があるのだ。

 そんなもの……僕には無いよ。

 ──何故諦める。何故投げ出す。何故、何故おぬしは逃げ出すのだ!

 何でって、そりゃあ──貴方の期待に応えられないからだよ。


「──ッ! はぁ、はぁ…………夢か……」

 布団を押し退けて体を起こす。窓から差し込む光は仄明るく、時刻はまだ四時を回った頃だった。
 久々に見た夢は、父親の叱責から始まった。幼い頃より何度も何度も言われてきた言葉。
 届く筈もない無謀過ぎる妄想の為に息子の人生を犠牲にした父親の戯言。
 僕の人生をこれでもかってぐらい縛りやがった……最悪の鎖だ。
 父親の期待に応えたくない。そもそも応えられない。そんな僕に出来る事なんてもうほとんど無い。とにかく理想の息子を演じる事だけが、僕に出来る最後の事だった。
 …………まぁ、それすらもう無理だと思ったから逃げ出したのだけど。
 それでもやっぱり、人に嫌われたくなくて無意識で優等生《いいひと》を演じてしまう。

「……何で、あんな夢…………自分の無力さを痛感したからとかだったら、本当に無様だな」

 寝台《ベッド》の上で膝を立て座り込む。そして、自分の手のひらを見つめながら僕は嘲笑をこぼした。
 それは昨日の事。僕は光魔法の中でも一番面倒な魔法をちょっと使っただけで魔力の大半を消費し、倒れてしまった。司祭が聞いて呆れる…………まぁ、そもそも僕は司祭じゃないんだけどね。
 こんな筈じゃ無かったんだけどな。本当はもっとこう……彼女達の前で簡単に何度も治癒魔法を決めて、期待に応えたかったのに。
 実際は僕の扱える治癒魔法じゃあ癒せないからって光魔法を使って……それで一回で倒れるとか本当に有り得ない、凄く恥ずかしい。
 というかそもそも昨日神聖十字臨界(セイクリッド・ペトロ)を使った時、本来の二倍ぐらいの魔力を消費した気がするんだが…………草死病《そうしびょう》ってそんなに大変な病なのか?
 厄災レベルの病って何、本当に。