「こちらにある万能薬はどこ産でしょうか」
「万能薬は……クサキヌアのものだが……」
「ふむ。クサキヌア産なら一瓶で魔力回復量はおよそ…………一回につき三本あればいけるか…?」
「まさか貴殿は世界中で流通している産地別の万能薬の僅かな効果の差を把握しているというのか?!」
「えっ? は、はい。実家で色々仕込まれたので……」

 オセロマイト王の勢いに少々押されるリードさん。
だがオセロマイト王の驚愕も頷ける。普通は万能薬のそんな細かい差異、誰も気づけないし気にしない。
 そもそも万能薬がお高いものでして、普通の人ではまず手の届かないもの。その名に相応しい超スーパーレアアイテムなのだ。
 そんな万能薬の効果を産地別で全て把握しているとかこの人何者なんだ……司祭ってそんな教育も施されるものなの? それともリードさんは実はとんでもない大貴族とか。
 いつか本人から教えて貰えるといいな。
 その後、シャルもドーピング作戦に賛同してしまい、明日から二人が無茶な治癒を始める事になってしまったのだ。
 しかし私にはそれを止める資格がない。私が二人を巻き込み二人に頼んだ事だから…………。
 この罪悪感と責任感から逃れる事は許されない。これは、私が背負うべきものなのだ。

 夕食を食べ終わると、私達はそれぞれに用意された客室へと案内された。絢爛豪華で目を奪われる調度品達に毎度怯んでいたディオとシャルではあったが、ここまで来ると最早慣れてきたようで、ただの彫刻や絵画ぐらいでは動じなくなっていた。
 部屋割りはというと。イリオーデ達が「王女殿下の警護をする」と主張し続けた結果、全員かなり近めの部屋となった。
 何処かで叫び声が上がればすぐにでも聞こえそうな近さである。
 でもそれ以前に……イリオーデの事だから夜中もずっと部屋の前にいたりしそうなのよね。さてどう脱出してやろうかしら。
 夜中のうちに脱出して百年樹とやらを目指そうと思ってたのだけれど…………あっ、そうだわ。その前に百年樹の場所の確認とそこに行くまでの足を確保しなければ。
 行き当たりばったりな私は、慌てて紅茶を入れてくれているこの城の侍女に尋ねた。

「少し聞きたい事があるのだけれど……百年樹ってどこにあるのかしら? 私、前々から話を聞いていて……全て片付いたら一目見に行ってみたいのですわ」

 まぁ嘘だけどな。全て片付く前に行く予定よ。
 ふふふ、嘘も方便。侍女は私の話を信用してその場所を教えてくれた。

「百年樹でしたら、王都北門より出て馬車で四日程の森の中心部にありますよ。実は百年樹にはとても素敵な言い伝えもあって…………行かれる際は是非、マクベスタ殿下と!!」
「そ、そう……?」

 侍女が妙に鼻息を荒くし、目を輝かせてこちらを見つめてくる。あれかしら、私みたいな余所者は道に迷うから現地の案内人を用意しろって事かしら。
 でもマクベスタ連れてったら即死しちゃうし、それは無理なんだよなぁ……。
 それにしても馬車で四日か……困ったな、それじゃあ単純計算でも往復八日はかかるのか。確実に抜け出したのがバレるわ。
 まぁでもやるっきゃないよね。