リードさんとシャルの噂はもう既にラ・フレーシャ中に広まっていて、明日からは大勢の人が押し掛けてくるかもしれないと……そう、用意された夕食の席でオセロマイト王より話があった。
 リードさんもシャルもかなり消耗していたのに、更にペースを上げるなんてあまりにも……と私がカトラリーを握り締めた時。
 リードさんがスっと手を上げてオセロマイト王に進言した。

「万能薬──って、まだ残ってますか?」
「あぁ。国庫にまだ幾らか……しかしあれは何故か感染者達には効かぬ、例え使用しても……」

 そんな気がしていたが、なんと万能薬と呼ばれる死以外の大抵のものを癒す最強の薬でも竜の呪いは破れなかったらしい。
 じゃあ竜の呪いを破れる毒の魔力と光の魔力はなんなのよ……万能薬超えちまってるわよ……。
 ちなみに、ここで言う万能薬と言うのはいわゆるエリクサー的な不老不死の霊薬とはまた違ったもので、ポーションの王様……最も効果の強いウルトラアルティメットポーションなのだ。
 この世界にはエリクサーも勿論存在するのだが、誰も作り方を知らない誰も材料を知らないでもう数百年と姿を見せていない。文字通りの幻の霊薬なのだ。
 ……補足だが。実は天の加護属性《ギフト》を持つミシェルちゃんであれば、エリクサーに近い効果を発揮する特殊な魔法を扱う事が出来る……とファンブックに書いてあった気がする。やっぱえぐいのよ加護属性《ギフト》って。
 と考え事に耽っている間も話は進んでいて。

「いえ、感染者に使うのではなく。僕が使わせて頂こうかと」
「き、貴殿が?」
「はい。僕が」

 オセロマイト王が驚きを顔に宿す。リードさんはずっと変わらず微笑んだままだ。……オセロマイト王って実直な人なんだろうな、腹芸とか苦手そう。

「この通り僕はまだまだ半人前でして、神聖十字臨界《セイクリッド・ペトロ》を一度使えば倒れてしまいます。しかし僕は、どうやらあれでなくてはこの病は癒せないようで……じゃあどうするのかと思い、考えついたのです──」

 ゴクリ、と私達は固唾を飲んだ。そして笑顔のリードさんはとんでもない言葉をサラッと吐き出した。

「──万能薬を乱用(ドーピング)するしかないなーと。治癒目当てでは無く、魔力の回復目当てで」

 どっ、ドーピングだとぉおおおおおお!!? そんな目的で万能薬を使うとか聞いた事ない!
 と瞠目する私。
 しかしリードさんは我々の驚愕など毛程も興味が無いようで、オセロマイト王に更なる質問を重ねていた。