「あれはね、裁きの魔法だ。範囲内のありとあらゆる悪を排除する……呪いも、毒も、病も、人さえも……その裁定を下すのは僕じゃなくて、主だから……主が悪と断じたものすべてが、この世から消失する、そういう魔法なんだ……」

 たった一度でこうなんて、我ながら情けない…とリードさんは薄ら笑いを浮かべた。
 ──光魔法に明るくない私でも分かる、これは恐らくとんでもない魔法だ。何せ……竜の呪いを完全に解呪せしめたのだから。
 そんな魔法を代償が凄まじいにも関わらずあっさり発動させるなんて、リードさんは本当に凄い人だ……。

「ごめんね、僕が、不甲斐ない……ばかりに。次使うためには、多分……半日は休まないと無理かなあ。こんな事なら……もっとちゃんと──……」
「っ、とりあえず一旦休んで下さい! イリオーデ、ディオ、リードさんを運ぶの手伝って!!」

 ディオ達の方を向いてそう叫ぶと、二人が急いでこちらまで駆け寄って来た。そしてリードさんを担ぎ、近くの空いているスペースに横たわらせる。
 ディオに引き続きリードさんを見ていてくれと頼み、私はシャルの元へと戻った。
 あれ程ポンポン治癒魔法を使っていたあのリードさんがここまで疲弊したんだ、シャルとしても相当キツいかもしれないと思ったからである。
 リードさんが広範囲を一気に解呪してのけた為、シャルはその範囲外にいた感染者の解呪に挑んでいる。リードさんを寝かせた位置から人にぶつからないよう小走りでシャルの元を目指す。
 少しして大柄な男性の“毒”の除去を始めているシャルの背中が見えた。その背中に向けて、私は声をかける。

「シャル、調子はどう? 体は大丈夫?」
「……今の所は。ただ、これを何回も繰り返せば俺も倒れてしまうだろう、たぶん」

 リードさんのような目に見える派手さは無いものの、シャルもまた懸命に解呪に取り組んでくれているようだ。その証拠にシャルが解呪しようとしている感染者の体にある痣が、少しずつではあるが薄まってゆく。
 しかし薄まる痣と反比例するかのように、シャルの顔に浮ぶ脂汗はどんどん濃さを増すばかりだった。