「アミレス王女殿下、具体的にはどのような事をするおつもりなのか教えていただいても? 我々でも何か力になれるかもしれませんので……」

 カリストロ王子がそう切り込んでくる。なので私は彼に向けて感染予防の徹底を頼んだ。
 その概要だけ話すと今度はオセロマイト王が興味深そうに「具体的には?」と聞いて来た為、私は具体的な予防法について説明した。

「まずは手洗いうがいの一般化ですね。勿論どちらも綺麗な水で行う事が理想的です。これにより手についた菌を洗い流す事が出来て、うがいによって口内の汚れを吐き出せるのです」

 簡単な説明をした所、オセロマイト王達は「うがいとは……?」と首を傾げていた。手洗いもだがそれ以上にこの世界にうがいと言う行為は存在しないのだ。
 これは骨が折れるかもしれないと思いつつ、私はいざ説明に挑んだ。

「うがいはですね……カップ一杯分程の水を口に含み、上を向いて大きく口を開きガラガラと言います。十五秒程それを行ったらどこか近くの地面とか排水目掛けてその水を吐き出して下さい。以上です」

 これ以上どう話せばいいの? と思いつつ一連の流れを説明すると、予想通りオセロマイト王とカリストロ王子が目を白黒させながら、

「それで本当に病を予防出来るのか……」
「はしたないのでは……?」

 とたまげていた。まぁ予想通りだ。なので私は事前に用意しておいた言葉を返す事にした。

「慎みで命が守れるのならこんなのやる必要無いんですよ。感染予防対策もろくに無く命を守れてないからやるんです。はしたなくて結構、どんなに醜く滑稽でも生きてりゃ丸儲けですからね!」

 数分ぶりに、フォーロイトらしく高説を垂れる(フォーロイトらしくとは??)。
 とは言え草死病《そうしびょう》は実際には感染症ではない為これには効果が無いものの、冬季の小規模な感染症等には十分効果を発揮してくれる事だろうから、別に構わない。
 今は最早どうしようもないが、とにかく未来の為にこう言った知識を広めるっきゃないのだ。

「後は……飛沫感染の対策ですけど、とにかく口元を布で覆って下さい。できる限り繊維の細かいもので。そうですね……シャンパー商会に頼めば多分用意してくれますよ、あの商会本当に凄いですし。空気感染は換気、粘膜感染は人と接触しない。これだけである程度は対策出来るかと」

 返事を待つのも面倒になってきたので、私は記憶の引き出しを次々に開けてその中身を見ていく作業を始めた。
 その中から感染症に関する僅かな知識だけを総動員し、こうしてぶつぶつと話し続けているのである。