──熱に侵されたからか人格に変化が見られる。

 なんと面白い話でしょうか。フリードル殿下よりこの報告を受けた時、私は衝撃を受けました。
 不可解で突発的な事象。本来起こるはずの無い変異……それが私の近くで発生したというのです。
 確かに人は死を疑似体験すると考えを改め、性格に変化が見られると言います。なので、彼女の事も、有り得ない事では無いのです。
 確かに今朝方に私が見た彼女は、かなりの高熱に囚われており、見るも憐れな姿となっておりました。それはもう酷い熱で、このままでは後数日間は病に伏すだろうと思う程でした。
 一応、熱によく効くと噂の薬を彼女の専属侍女に渡して早い回復を祈りましたが……まさか半日足らずで回復し、散歩に躍り出る程元気になるとは。あまりにも予想外でしたね。

 別にそれは良かったのです。私としても彼女が少しでも早く回復する方が、何かと監視がしやすいですし、眠る者を視透す事は難しいので……。
 ただ問題が一つ発生しました。フリードル殿下への態度が明らかに昨日までの彼女のものとは違うのです。……とは言え、それもフリードル殿下から聞き及んだだけなのですが……彼が嘘をついている様子は無かったので、まぁ、事実なのでしょう。
 彼女のあまりにも突飛な変化にフリードル殿下はかなり驚かれたようで……表面上は冷静を装っていましたが、その胸中は戸惑いで溢れておりました。
 かく言う私も少しばかり戸惑ったものです。まさかあの彼女がフリードル殿下に反抗するだなんて……と。
 彼女はとても、心の底から、フリードル殿下と皇帝陛下を愛しておりました。フリードル殿下と皇帝陛下に愛されたいと願っておりました。
 それに偽りなど無く、私がこの眼で確かに視てきたものなのですが……どうやら今日の彼女は違ったようです。フリードル殿下や皇帝陛下に嫌われる事を恐れていた彼女が、もし作戦などであっても反抗的な振る舞いをする筈が無い。
 ……つまり、昼間にフリードル殿下が遭遇し、反抗的な振る舞いをした彼女は正しく彼女であり……その振る舞いも本心からのものであったという事です。