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 何だこれは……もしや夢か? 今日は昼寝をたっぷりしたからあんまり夜は眠れないかと思ったのだけれど。
 どうやら私は夢を見ているらしい……それも、自分の姿が鮮明に見えるとても珍しい夢。
 なんだろう……嫌な予感がする。

「よっ、久しぶりだな精霊の愛し子」

 背後から妙に癇に障る声が聞こえて来る。ゆっくりと振り返ると、そこには顔がペンでぐちゃぐちゃに塗り潰された男が空中で胡座をかいて頬杖をついていた。
 空いている手は私に向けて振られている。その口元は愉しげに弧を描いていた。
 これ……あれよね、自称凄い悪魔さん。本当にまた来やがったわ。

「オイオイ。感動の再会だろ〜? もっと感涙に咽び泣けよ」

 は? マジで何言ってんのかしらこいつ。

「くっ……はっははは! お前本当にずりぃな、普段からそれもっと前面に出そうぜ?」

 悪魔が大きな口でギザギザの歯を見せびらかすように、腹の底から笑う。
 嫌よ、誰がこんな醜い内面を外に出すのよ。そんなの私は絶対無理、絶対嫌。皆に嫌われて当然だもの。

「えー勿体ねぇ……アイツ等に嫌われてもオレサマがいるから問題無いぞ、つったらお前はどうする?」

 寝言は寝て言え。少なくとも、私は悪魔に魂を売るような事はしたくないわ。
 悪魔に向けて言い放つ……まぁ口をパクパクしてるだけで実際には喋れていないのだけれど。どうやら夢の中では声が出ないらしいのだ。

「つまんねぇの。まぁ安心しろ、少なくともお前の魂は死ぬまで貰わねぇから。簡単に奪っちまうには惜しいからな、お前の生き様は」

 …………本当に何を言ってるのかしら、この悪魔。まぁ魂を取られないのならいいか。
 いや待って。そもそもどうして私の夢に悪魔が現れるのかしら。魔族の中でも悪魔は召喚しない限り人間界に来ないんじゃなかったの……?
 人間の夢だからノーカンとか? でも何で私の夢なんだろう、悪魔と縁があるとかかしら。まぁ確かにうちの父は魔王みたいな極悪非道な人間だけど。

「ハハッ、お前の父親は関係ねぇよ? んで、オレサマがどうしてお前の夢に干渉出来るかだったな……うーむ、まだ内緒って事でいいさな。どうせその内分かる事よ」

 はぁ? 何でよ教えてよそれぐらい。

「いやァ、オレサマ達にも色々と制約があるんだわこれが。精霊共にも妖精共にもあるように魔族にもあるんだよ、制約ってのが」

 悪魔が「制約の内容はどれもこれも千編一律で毎日つまんねぇったらありゃしねぇよ」と煙草を吐くようなため息と共にぼやく。
 …………制約って確かシルフや師匠も言ってた……それの影響で精霊さん達は人間でかなりの行動を制限されてるって言ってた。
 その制約とやらが精霊だけでなく魔族や妖精にもあるというの?

「そうだなァ、神と各世界とで勝手に交わしやがったこれ以上無いくらい最悪の決まり事だ。だから精霊達は本来のものとは違う姿をしてる。特に精霊なんてものは、本来の存在《スケール》で人間界に降り立てば人間にとって天災そのものだろうしな」

 え、じゃあつまり私の知ってるシルフや師匠の姿は本当の姿じゃないって事……?
 そうなのか、そんな事があるのか……と私は顎に手を当てて考える。それを悪魔はまじまじと見ていて。