「やっぱり何処でも司祭がやる事は変わらないんだね。やり口が汚いよ、本当に……それで、まぁ、何と言うか……結論から言えば、一部の魔力は結界を張る事が出来ると言われているんだ。光の魔力に限らずね」

 リードさんは自身の右手にほんの少しの淡い光を纏わせた。それは恐らく、光の魔力による発光だろう。彼に治癒魔法をかけてもらった時も付与魔法《エンチャント》をかけてもらった時も、同様に彼の手が淡く光っていたから間違い無い。
 その右手に視線を落とし、彼は話を続ける。

「光の魔力を持つ者ばかりが結界を扱うのは、光の魔力が最も結界を張るのが簡単だからだ。実体を伴わない魔力だからこそ、結界として見えないものの形を維持する事が容易い。しかし他の魔力……分かりやすい所で言えば四大属性かな。あれらは全て結界と言う形状に維持する事が難しい。だから誰もやって来なかったし、やろうとすら思わなかったんだ」

 私も、結界を習う時に似たような事をシルフから言われた。だからこその精密な魔力操作と、長時間の結界維持を可能とする魔力と精神力が必要だと。結界と聞いてオタクの血が騒いでいなければ、あそこまで頑張れなかったと思う。
 しかしその気が遠くなるような特訓の果てに私は結界を張る事に成功し、そのおかげもあって全反射と言う技を生み出せたのだ。
 塵も積もればなんとやら。努力はやはり積み重なるものなのだ。

「……だけど。どうやらこのお姫様はその誰もやろうとすら思わなかった事をやり遂げてしまったらしい。そうなんでしょう、王女殿下?」
「えぇ。集中し過ぎたあまり何回か鼻血出しちゃう程には苦労したけど、見事結界魔法は習得しましたとも」

 話した後に私ははっとした。王女が鼻血とかはしたないかしら…………? と口を押さえたのだが、この人達の前だと最早今更感が否めない。
 ので気にする事無く私は親指を立ててにっと笑う。

「そう言う訳ですのでご安心を。一晩ぐらいなら皆の事を守れるわ!」

 そうやってしばらく話し合いを続けた後、私が結界を張る事に落ち着いた。リードさんも結界魔法を扱えるそうなのだが、何やらあまり得意ではないとかで……申し訳無さそうに「君に任せるよ」と言っていた。
 今晩はあの場から少し進んだ所にある森の中で野宿をする事に。開けた草原よりかは森の方が紛れる事が出来て良いらしい。
 そしていざ結界を張ろうとなった時に先程の、特訓で鼻血出した発言から体の心配をしてくれたシャルとイリオーデに心配ご無用! とかっこつけ、私は準備に勤しむ。

 結界の張り方は様々だが、今回は一晩もてばいいので比較的簡易なもので問題ないだろう。
 と言う訳で、私はまず結界の柱となる場所を四箇所定めた。東西南北に一箇所ずつ、綺麗な正四角形の少し大きめな結界にするつもりだ。
 その四箇所に小さく穴を掘り魔力で作った水で水溜まりを用意し、その底に魔法陣を少しずつ刻んでゆく。順番は東西南北……特に理由は無いが、こうした方が元日本人としてやりやすい気がするのだ。
 柱の準備が完了した所で虎車や皆が結界範囲内にいる事を確認し、私はこの結界の中心たる場所に立った。後はもう、結界魔法を発動するだけである。