「起きたのかアミレス。すまない、今少し話し込んでいてな……」

 誰よりも早くこちらに気づいたマクベスタがこちらを振り向く。

「おはよう、宿が無いって話をしてるのよね?」
「あぁ。このままだとお前を野宿させてしまう事になりそうなんだ……もっとオレがちゃんと地図を見ておけば……」

 握り拳を震わせて、悔しそうな声を絞り出すマクベスタ。何だかデジャヴが……数時間前にもこんな姿を見た気がするわ。
 ふっふっふっ、だが今回は彼を慰める事が出来る。何故なら私は野宿でも問題ないからだ!

「私、野宿でも全然大丈夫だよ?」
「「「「えっ」」」」

 マクベスタとディオとイリオーデとリードさんの声が重なる。全員が私の発言にたまげているようだった。

「寧ろ野宿とか初めてだし、ちょっと楽しみよ!」

 今までの六年間を皇宮で過ごして来た反動か、ただでさえ外の世界が楽しくて仕方ないのだ。それに加えて野宿と来れば……まさに冒険、まさに旅。
 好奇心がどうしても抑えられないのだ。

「い、いや殿下、野宿ってのはつまりベッドも無けりゃ屋根も壁もねぇモンだ。それに安全だって保証も無いんだぞ?」
「別にいいわよ。ベッドも屋根も壁も無くて。寝ようと思えば人間どこででも寝られるものよ? それに貴方達がいて危険な目に逢う訳ないじゃない」
「うっ。そりゃ、そう……だが……」

 私兵三人と信頼のおける友人二人、そして人を裏切る事だけは無いと確信している青年が一人。
 それぞれが何らかの分野に優れている為、もし魔物や野盗の襲撃などか発生しても大抵は対処出来る筈だ。
 しかしそれでも心配だと言うのなら。

「どうしても万が一の事態を心配するなら、結界張ろうか?」

 皆を守る為の結界を張ろうじゃないか。そう提案したところ、彼等は目を丸くしていた。信じられないものを見るかのようにこちらを見ている。
 そんな中、リードさんがおずおずと問いかけてきた。

「……君は、結界魔法を使えると言うのかい?」
「えぇまぁ。シルフ…………私の魔法の先生が色々教えてくれたので」

 戸惑いに染まるリードさんの顔に、ほんの一筋の冷や汗のようなものが滲む。
 何を隠そうこれまたシルフ直伝の技。魔力量が多く努力の末魔力操作にも秀でた私だからこそ出来るものとシルフは言っていた。
 だからこそ結界を張ろうかと提案したのだが、そこでディオがスっと小さく手を挙げ、

「ちょっと待てよ、俺ァ学がねぇからよく分かんねぇんだが……結界魔法っつぅのは光の魔力専用の魔法なんじゃなかったのか? 司祭達が恩着せがましく神聖なんたら結界とか張ってるのを見た事がある」

 質問を投げかけて来た。そしてそれにはどうやらリードさんが答えるようで。
 リードさんは深緑の眉を下げて「あー……」と少し困ったような声を漏らしてから、その事について説明した。