「えー? でもおねぇちゃんすっごくいい匂いするでしょ? ぼくだったら絶対どさくさに紛れてほっぺた触るぐらいはするよ。だっておねぇちゃんのほっぺた絶対柔らかいもん!!」
「君そう言う感じの子だったのか……?!」
「えへへ〜朝飯食わぬは男一生の恥って言葉があるんでしょ、西側諸国(こっちの方)には!」

 少女のように見えなくもない美少年が、まるで思春期の男の子のようにあけすけと煩悩を語る様に大人達は戦慄した。
 朝飯食わぬは男一生の恥という言葉は、わざわざ用意された朝食は当然感謝して食べるべきものであり……それが転じて、目の前にある絶好の機会を逃す事は一生後悔する。と言う例えなのである。
 ちなみに、西側諸国ではこの例えをもっぱら性的な意味合いで使うのだが……そんな言葉を外見年齢十歳程の少年が使ったものだから、平均年齢二十一歳の大人達は固まってしまったのだ。

(どう反応するのが正しいんだこれは……?!)
(朝飯…………うん、小腹が空いてきたな)
(王女殿下が眠っていて良かった。このような下世話な話を聞かせる訳にはいかなかったからな……)

 約一名関係の無い事を考えているものの、ほか二名は非常に困惑していた。
 しかしそんな大人達の葛藤も露知らず、シュヴァルツは更に話を続けようとした。
 反応に困る大人達にとって、今ばかりはシュヴァルツの小悪魔的な笑顔がただの悪魔の笑顔に見えてしまう事だろう。

「えーっと、それともあれなのぉ? もしかして皆、ふの──」

 楽しげに大人達を煽ろうとする少年。しかしそれは妨げられた。

「うにゅ…………ん……くそやろー……は、ぜんい、ん……ころす……っん……」

 気持ちよさそうに寝息を立てていたアミレスが、突如物騒な寝言を発したのだ。それを聞いた四人は思った。

(((一体どんな夢を見てるんだ……??)))
(流石は王女殿下。夢の中でも不届き者への罰を怠らないとは……感服致します……!)

 その寝言が妙に頭に引っかかるのか、シュヴァルツはその時点で下世話な話をする事をやめた。その後、虎車が一時停止する時まで彼等はごくごく普通の話をしていたとか……。