「あの花の最も厄介な所は……その見た目と匂い。人の目を惹く美しい見た目と、甘い匂い。それに引き寄せられた人がヴィオラを摘もうと茎に触れ、そして毒に侵される。その上未だに解毒薬が作られていないから毒の魔力か光の魔力でしか治せないと言われている」

 うんうん。確かに見た目も綺麗でいい匂いもしたわ。あの外見だとそりゃあ騙されるわよね〜。
 と、ヴィオラを実際に贈られた時の事を思い出しながら何度も頷いた。
 ちなみにこの花にはとある逸話があって……一人の恋する美しい少女『ビオラ』が悲しく辛い片想いの果てに病んで自殺してしまい、その心臓から生えて咲き誇った花がヴィオラなのだという。
 ただその花をビオラと名付けるのは死者への冒涜になるとかで、若干もじってヴィオラという名の花になった。それでも十分死者への冒涜な気がするけども。

「そんなものを、殿下は触ったってのか?」
「え? まぁ触ったけど……でも本当に何も無かったよ? 見ての通り元気だし」

 突然私の方を見て、ディオが聞いてくる。彼の顔は焦燥と緊張に支配されていた。
 もう過ぎた事なのだ。別にそんな気にしなくてもいいのに……彼等は心優し過ぎるあまり、過去に猛毒の花に触れた事さえも心配してくれているらしい。
 ……やだなぁ、皆が私の事でこんな風に暗い空気になってしまうの。無駄に心配をかけるのも嫌だ。
 だから私はもうこの事は考えなくていいと訴えかける事にした。

「…………心配してくれるのは有難い事だし、とても恵まれている事だって分かってるわよ。でも、こと毒に関しては本当に大丈夫なの。だからどうか私を信じて欲しい……これ以上、皆が私なんかの事で悩んだり後悔するのを見たくないよ」

 だってそれを見たら私は私が許せなくなるから。皆にそんな顔をさせてしまった不甲斐ない自分が嫌になるから。
 ……そんな、結局のところ自分勝手なだけの訴えだった。

「……お前がそう言うのなら、信じるからな」

 暫く静寂が続いていたのだが、その最中にマクベスタが私を信じると言ってくれた。
 それに「ありがとうマクベスタ」と笑顔で返し、私達は気を取り直して昼食を食べた。皆で色々と話しながら食べていると時間はあっという間に過ぎ、またもや出発の時間となった。

 今度はリードさんが前もって全員に衝撃耐性と持続回復の付与魔法《エンチャント》を施してくれたので、暴走荷虎車のジェットコースター的ドライブも比較的に楽だった。
 そして多分誰よりも楽だったのは私だろう。何故なら私は……イリオーデに後ろからホールドされるスタイルで三角座りをし、お尻の下には緩衝材代わりの布が何枚も敷かれている。
 布のお陰でお尻への衝撃は和らぎ、イリオーデが後ろから抱き締める形で支えてくれている為体勢が崩れる事も無い。
かなり快適になっているのは確かなんだが……凄く恥ずかしい。とにかく恥ずかしい。

 放っておくと私がすぐ怪我をするからって、イリオーデが私を気にした結果の忠節なんだから! こんな風に恥ずかしがって照れてはいけないと分かっているのに。