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「──そろそろか」

 後継者問題の中心、ハミルディーヒ王国が王城の一室。
 鮮やかな朱色の髪を持つ少年は遠くの空を見上げ、覚悟を決めていた。
 そんな少年の後ろに立つ長身の男が、不安げな面持ちで最後の確認を取る。

「──本当に宜しいのですね、カイル様」

 カイルと呼ばれた少年は振り向いて、ニヒルな笑みを浮かべた。

「あぁ。俺は──継承権を棄てる。加護属性《ギフト》所持者を囲えないこの国が帝国に勝つ可能性はゼロに近い……俺は負け戦になんて、送られたくないからな」

 彼の言葉に長身の男はやるせない気持ちとなる。しかしそんな気持ちを振り払うかのように顔を左右に振り、長身の男はカイルの前で跪いた。

「……貴方様がそう決めたのであれば、僕はそれに従うのみです」

 カイルの覚悟が決まっていたように、男の覚悟もまた決まっていたのだ。
 それを聞いたカイルは男の目の前でしゃがみ込み、男の肩を叩きながら「顔上げろって」と言い、歯を見せて笑った。

「そんじゃ……これからも二人で頑張っていこうな、コーラル」
「……! はい、何処までもお供致しますカイル様!」


 ──ハミルディーヒ王国第四王子、カイル・ディ・ハミル。自ら王位継承権を放棄し、後継者争いよりいち早く離脱。

 この報せがハミルディーヒ王家に更なる混乱を齎したのは、言うまでもない。