代償。それは精霊召喚における召喚者側が負うべき代償であり、召喚した精霊の位によってその重さもまた変わる。
 あの時アミレスが召喚したリバースは最上位精霊だったので、その代償は計り知れないもの。普通の人間であれば九分九厘の確率で死ぬであろう代償が与えられる筈だった。

 しかしアミレスはその代償を受けなかった。それは何故か……そう、エンヴィーがその代償を肩代わりしたからであった。
 手伝うのは魔力を大量に使うから、召喚には触媒があった方がいいから……それらは確かに真実なのだが、別にそれは召喚陣より出ていても可能な事柄。
 にも関わらず、エンヴィーは召喚陣から出ずアミレスの手を握りしめたままアミレスに精霊召喚をさせた。

 その結果、目当てのリバース──最上位精霊の召喚と言う前代未聞の精霊召喚には成功し、アミレスの望みは叶えられた。
 が、その裏でエンヴィーは本来召喚者が精霊召喚で負う筈だった全てを肩代わりし、それ相応に負傷していたのだ。
 リバースはそれに気づき、精霊界に帰還する際にあんな言葉を残していったのだ。
 しかしエンヴィーはその言葉を無視し、アミレスの頼みを受けて神殿都市に侵入して暴れていたのだ。

「で、代償は今どんな感じなん?」
「あー……放っておいたら権能が暴走しそうなのと、魔力炉の損傷が激しいなァ。あとはアレ、さっきちょっと力使ったからすげぇ吐きそう」
「あんたほんまに何やっとん??」

 ずっと痩せ我慢を続けていた緊張の糸が切れたのか、途端に酷い顔色となり仰向けに倒れ込むエンヴィー。
 そんなエンヴィーにゆるーく突っ込みを入れつつ、ハノルメは彼の体を風で浮かせて運び始めた。

(エンヴィーが無茶すんのは昔からの事やけど……あの御方と言いエンヴィーと言い、人間の女の子の為にそこまですんねんなぁ)

 ハノルメはエンヴィーを運搬しつつ楽しそうに笑っていた。しかし……エンヴィーにそれを咎める気力は無かったのだ。
 ぐったりとしながら運ばれる事暫くして、エンヴィーはリバースによる説教と治療を同時進行で受ける事となった。
 遠のく意識の中で、顔を歪め自分の治療をするリバースの姿を見て……エンヴィーはその可笑しさについ笑ってしまい、その所為で更にコッテリと絞られたとか。
 その後回復するまでリバースに見張られていたエンヴィーがアミレスの元に向かったのは……少し後だったとか、かなり後だったとか。