(……まさかエリドル・ヘル・フォーロイト皇帝が上位精霊を従えていたとは……ただでさえ崩れようとしている西側諸国の均衡が更に……)

 ミカリアの頬に一筋の冷や汗が浮かぶ。
 西側諸国の均衡はとうの昔より崩壊寸前と言った所ではあったが、無情の皇帝が上位精霊を従えていると言う点においてそれは完全に瓦解する事だろう。
 何せ、 フォーロイト家とは戦場の怪物を幾人も輩出した戦闘特化の氷の家系。それに加え、フォーロイト王国を守り抜いた剣聖と呼ばれる騎士ドロシーの家系、ランディグランジュ家もあり、常に白の山脈より来たる魔物達の脅威から帝国を守る帝国の盾、大公家テンディジェル家もある。

 ただでさえ最強と言う呼び名を欲しいままにするフォーロイト家には、帝国が誇る何にも負けぬ剣と盾がある。
 その時点で西側諸国……魔導学による強力な魔導兵器《アーティファクト》を扱うハミルディーヒ王国と、獣人としての特性により異常なまでの戦闘能力を誇るタランテシア帝国以外では、まずフォーロイト帝国に太刀打ち出来ないのだ。
 そこに精霊の力まで加わったとなれば……フォーロイト帝国が今一度戦争を始めたとして、西側諸国は最早蹂躙される運命より逃げ出せない事だろう。
 そう、恐ろしさのあまりミカリアは一度身震いした。

(もし、戦争をする為に大司教を派遣しろ。などと言われれば……僕は、どうすればいいのだろう)

 そんなフォーロイト帝国が皇家から国教会の事実上のトップたるミカリアに直接書信が届くなど、まさに前代未聞の出来事。
 その内容によっては、ミカリアも差し迫った選択を強いられる事だろう。
 固唾を飲み込み、ミカリアは恐る恐るその封を開ける。封筒より便箋を取り出し、その内容を見て彼は目を見張った。