朝起きたら、目の前に白金の美しい毛並みを持つ猫がいました。
 窓から迷い込んで来たのかな……と猫を眺めていると、猫の両目がパチリと開かれた。その目は見れば見る程不思議なものだった。
 見る時々によって色が違って見える。光の当たり方によって輝きも変わる。……そんな、有り体に言えば虹色に見える不思議な目だった。
 不思議でどうしても心惹かれるその目をじっと見つめていると、猫もまた私を見つめ返しているように、微動だにせずこちらを見上げていた。

「……にゃ、にゃー……猫さんはどこから来たの?」

 何だこの大人しすぎる猫はと思いつつ、私は猫に話しかける。しかし猫は一切動かず、ただずっとこちらを見上げているだけだ。
 ……なんだろう、とても恥ずかしいし怖いわ。一体どういう状況なのかしら、これ。
 と、一人で考えを巡らせていた時。

「精霊界だよ」

 ──猫が、喋った。めちゃくちゃ普通に、なんの前触れもなく、猫が人の言葉を喋った。
 そんなものを目の当たりにして驚かない筈もなく……私は布団を押しのけて飛び起きて、物の見事に頭から落下した。

「〜〜っ!」
「アミィ?!」

 ドンッという音と共に床に落ち、私は後頭部を抱えてのたうち回る。
 痛い、あまり痛くない気もするけれどやっぱり痛い。床にカーペットが敷かれて無かったら危うく大怪我だったわ。
 ん? というか今、シルフの声がしたような気が…でもあの光はどこにもいないし……あれ、そういえばさっきの猫の声、どことなくシルフに似ている気が……。

「……ねぇ、猫さん。あなたってシルフなの?」

 軽やかにベッドから降りて来た猫に、私はそんな馬鹿みたいな事を尋ねる。
 すると猫はこくんと頷いて、

「そうだよ。ただの光じゃあ出来ない事が多いから、この姿に変えたんだ……ってボクの事よりも、アミィ大丈夫? 今頭から落ちたよね?」

 そのぷにぷにとした肉球で私の頭を何度か撫でた。どうやら心配してくれているらしい。
 私はそれに大丈夫だよと返して、ゆっくりと起き上がる。いつの間にか服が寝間着になっている…ハイラさんかな……。
 猫を抱き上げてから私はベッドに腰を下ろす。そしておもむろに猫を掲げ、私は感嘆の息をもらす。

「可愛い……」

 やっぱり猫はどの世界でも可愛いものね、とても可愛いわ。癒される、とても和む……。
 しかしこの猫、ただの猫じゃあない。ご存知の通り喋るのだ。しかも割と自由に。