「い、禱の魔力……?」
「禱の魔力は数十年前に滅びたのですよ、何を言ってるのですか?」

 女の司祭が困惑し、男の司祭が疑問を口にする。
 禱《いのり》の魔力とはその名の通り祈る力。その魔力は人々の祈りを実現させるものであり、祈りの実現以外に出来る事が無い代わりに、使用者の魔力と生命力と運命力を消費して『理を捻じ曲げない程度』の祈りを全て聞き届け実現させる事が出来る。
 しかし人間が強欲な存在だったあまりに、禱の魔力を持つ人間は生命力と運命力を使い捨てられ次々に死亡。自然と禱の魔力を持つ人間はいなくなったのだ。
 なのでもう数十年とその魔力を持つ者はいない。そんな事を言われても不可能な事なんだが。そう、男の司祭は言いたかったのだが……。

「禱の魔力がある訳でもねぇのに時間かけて祈る意味が分かんねぇっつってんだよ。頭使えよ、何の為に人間に知性が与えられたと思ってんだ」

 眉尻を上げ、とても不機嫌そうにエンヴィーは吐き捨てた。
 エンヴィーの歯に衣着せぬ物言いには、流石の司祭達も目をキッとさせて反論する。

「初対面の相手に向かって失礼だとは思いませんか? 何処のどなたか知りませんがもう少し礼儀を弁えていただきたい!」
「祈祷とは我々にとってとても重要な儀式ですぞ! 我等が神々への祈りを届ける最も高尚で尊き儀式、それが祈祷! 貴方の発言は、敬虔な教徒とは到底思えぬ背信的発言です!!」

 敵意を剥き出しにし、声を荒らげる司祭達。しかしエンヴィーは彼等の様子など全くものともせず、彼等の教義を否定した。

「こんな所で神々に祈っても、神々が聞いてる訳ねーだろ。神々は基本的に天界から出て来ねぇし、出て来ても白の山脈の別荘に遊びに行くぐらいの感覚だ。この広い世界のどこかで祈る人間の言葉なんて、一々聞いてねーよ」

 その発言は、この司祭達はおろか周囲の天空教が信者達全てを敵に回すものだった。