「止まりなさい。大聖堂には入れませんよ」
「現在、大司教様による祈祷の最中ですので。祈祷が終わるまでお待ちください」

 国教会で定められし司祭階級の白き祭服を身につけた男女が一人ずつ現れ、扉の前に立つ。
 二人の司祭は目の前に立つ異様なオーラを放つ美形を見上げ、頬に冷や汗を滲ませながら固唾を呑んだ。

(何なのですか、この人は?! 信じられない程に神聖な魔力を溢れさせている……っ)
(だめだ、足が震える。少しでも気を抜いたら声も肩も何もかも震えてしまう。何者だこの男……!!)

 突然の足止めを食らい、更には不躾に見られた事により……本来、非常に偉く火属性において最上位の立場にあるこの精霊は、

「……は? 禱の魔力を持つ人間がいる訳でも無いのに祈祷? 馬鹿じゃねぇの?」

 ちょっとしたイラつきから、思った事を飲み込む事無くそのまま吐き出してしまった。

(こっちは急いでるっつぅのに何だこいつら、邪魔くせぇ。殺していーかな)

 精霊が人間を殺す事など息をするのと同じくらいの難易度であり、神に近く人間より離れ過ぎた最上位精霊と言う存在は……元々、傲慢かつ強欲な人間を嫌う傾向にある。
 中にはエンヴィーのように人間に友好的な最上位精霊もいるが、三十九体の最上位精霊のうち過半数は人間を嫌う者達だ。
 エンヴィーは寧ろかなり人間に対して友好的、人間が好きなタイプの最上位精霊なのだが……そもそもの性格が少し短気な所があったりして、こうして人間を軽んじる事もままある。
 これにより、これまでの数年間アミレスやマクベスタに対しては彼が非常に気を使っていた事がよく分かる。