「ここに友人が泊まってる筈なんだが、実は数日間連絡が取れてなくて。リードって奴で……深緑の髪の男なんだが、知らないか?」

 ディオが口八丁に話を進める。店員はディオの話を完全に信じて、私達をリードさんが泊まっている部屋の前まで案内してくれた。
 そして、「騒ぎだけは起こさないで下さいね……?」と念押しして受付へと戻っていった。……どうやら、店員は変な想像をしているらしい。
 そしてディオがコンコン、と部屋の扉を叩く。少しして部屋の中から足音が聞こえてくる。扉の前でそれは止まり、ついに扉が開かれる。

「何か御用でしょうか──って、え?」
「よう、リード」
「どうもお久しぶりです〜」

 中から現れたのは、とてもラフな格好で目を丸くしたリードさんであった。
 突然の来客に言葉を失った彼に向け、ディオが手を軽く上げて挨拶し、私も小さく手を振った。
 そんな私達を見て、リードさんは非常に困惑したような顔つきになる。

「…………何かあったんだね? そうだよな、そうじゃないと君達が僕を訪ねる意味が無い……はぁ、どうぞ、とりあえず中へ入って」

 まるで酸っぱいものを食べたかのように顔中に皺を作り、彼はため息を吐きながら私達を招き入れた。
 お邪魔しますと言いながら中に入ると、想像より遥かに広く綺麗な部屋がそこにはあった。広さにして……およそ十五畳はくだらなさそうな広さだ。

 落ち着いた雰囲気の壁紙に、少しだけ皺の残るベッド。リードさんの物らしき荷物は部屋の一角に纏められており、全く散らかっていない。
 窓際には一対の椅子と小さなテーブルがあり、片方の椅子にはあの日リードさんが着ていた綺麗なローブが背もたれに掛けられ、テーブルの上にはワインが置かれていた。
 なんというか、全体的にとても綺麗な印象を受ける。ゴミや汚れも全然無く、リードさんの性格がよく現れているとも思える。と言うか、多分ここ本当にいい宿屋だわ。お高めな感じの。

 リードさん……元司祭と言うだけはあってお金持ちなのね……司祭って結構稼げそうだし、知らんけど。
 ……それにしても、リードさんは私達がここに来たと言うだけで、それなりの緊急事態に陥っていると察したらしい。
 落ち着いて話す為にこうして中に招き入れてくれたのだろう。