「夜にガキだけで長距離の移動だなんて野盗共の格好の餌だぞ?! そもそも伝染病が流行ってるなんて危険な場所に、アンタがわざわざ身を投じる必要なんて──」
「あるわ。だって……私がやらなければ誰もやらないんだもの」
「──な……っ!?」

 ディオは私達の身を案じて声を荒らげている。しかし私はそれを両断し、眼帯で隠されていない彼の片目を真っ直ぐ見つめた。
 ディオが言葉に詰まったのを尻目に、私は更に続けた。

「確かに人類は病に勝てなかった。病なんて自然災害に等しい災厄に、人類は全然太刀打ち出来なかった……私のような無力な小娘が我儘で動いた所で、大した事は出来ない。分かりきってるわ、そんな事」

 ディオの薄暗い瞳が私を映す。
 しかしそれも束の間、ディオは瞳を伏せて言った。

「……なら、どうしてそんな無謀な事をしようと思ったんだ」

 その問に、私は少し間を置いた。
 あまり深くは考えて来なかった事だからだ。しかし、いざそれについて考えると……私の中にはただ一つ、単純な答えがあったのだ。

「無謀だろうが無茶だろうが、例え蛮勇と言われようが──何もしないよりかはずっと良いから」

 どこかの誰かが言っていた、しない善よりやる偽善という言葉。私はあの言葉にとても共感し、とても憧れていた。
 例えそれが偽善であろうとも、その人が何かを成したと言う事には間違いないのだから。
 そんな事に憧れていたらしい『私』は、無為無能な人にだけはなりたくなかった。
 偽善だとか蛮勇だとか、別に何と言われてもいい……ただ、何も出来なかった奴と思われ言われるのだけは絶対に嫌なんだ。
 私のそんな決意に、ディオ達は口を開けたまま言葉を失っていた。しかしその中でただ一人、シャルだけは変化を見せたのだ。

「……ふっ、そうか。王女様が俺を呼んでいた理由が分かったよ……王女様は、何かをする為に、俺の力が必要なんだな」

 シャルは顎に当てていた手を下ろし、そしてとても穏やかな微笑みを浮かべた。

「王女様はとても賢い。だからきっと俺の魔力の使い方に気づいたんだろうな……確か未曾有の伝染病だったか。うん、俺で良ければ王女様の力になろう」

 そう言って、シャルは握手を求めるかのように右手を差し出して来た。
 今の話とシャルに用があると言う発言から、彼は私が何を求めているかに気づいたようだった。
 するとシャルの右手を下ろさせるように、ラークがシャルの腕を上から押した。その顔には焦燥の色が浮かんでいた。

「シャル!!」
「良いんだ、ラーク。王女様はきっと悪いようにはしないだろう。俺の力が彼女の役に立てるのなら、私兵としては嬉しい事だ」
「…………だけど……っ」

 シャルが伝染病の蔓延するオセロマイト王国に行くのが相当嫌なのか、ラークが必死にシャルを止めようとする。
 まぁ確かに……普通は嫌よね。さっき致死率もかなり高い病らしいって話しちゃったし、いたずらに恐怖を煽ってしまったかもしれない。
 しかし個人的にはシャルの協力も仰ぎたい。なので私は、ラークの説得を試みた。