「ひとまず、眼帯の人の家に着けばいいんだよねー?」
「えぇそうね。でもそこまで馬車を運転してくれる人がいないのよね……」
「ふっふーん、ぼくに任せて!」

 自信たっぷりな面持ちのシュヴァルツは、私とマクベスタの背を押して馬車の荷台に乗せた。
 そして自身もまた同じように荷台に乗り、おもむろに立ち上がってにやりと笑った。
 それは、いつものあどけない無邪気な笑みではなく……まるで、皇帝のような絶対的権力者がする悦楽に浸る三日月のような笑みであった。

「ぶっ飛んじゃえーっ!」

 彼がそう言い放った瞬間、馬車よりも広く大きい魔法陣が地面に輝きだす。
 それは目に痛い程の光を放ち、思わず瞼をぎゅっと力強く閉じた。そして次に目を開いた時には──私達は、貧民街にいた。
 それも、前に来た時馬車を止めていた場所に……この馬車とそれに乗る私達は在った。
 瞬く間に起きた出来事に頭が追いつかず、私の頭にはいくつもの疑問符が浮かぶ。しかしその疑問は程なくして解消された。

「シュヴァルツ、お前……今何をしたんだ?」

 マクベスタが戸惑いを隠さずにそう尋ねると、シュヴァルツはいつも通りの無邪気な笑みを浮かべた。

「えーっとねぇーぼく、一度行った事のある場所にならこの世界のどこにでも行けちゃうんだぁ。座標指定で他のものを送る事も出来るよっ! ……やり過ぎたら魔力欠乏で死んじゃうだろうけど」
「まさか、空間魔法が扱えるのか……!?」
「え? あは、まぁそんなとこー」

 シュヴァルツがあまりにも平然と答えたものだから、私とマクベスタはあんぐりとする。
 そして当のシュヴァルツは、まるで遠くに投げたボールをしっかり持って帰って来たワンちゃんのように……とにかく褒めてくれと顔に書いてある状態で、瞳を輝かせて見上げてきた。
 未だ混乱する頭を必死に落ち着かせながら、よくやったね偉い偉い。とシュヴァルツの頭を撫でてあげる。
 シュヴァルツはまるで猫のように蕩けた顔になった。どちらかと言えば犬っぽい子なのだけれど。
 そして馬車の中から周りの様子をちらりと見てみると、大勢の人が訝しげな視線を送って来ているのがわかった。
 だがそれも仕方の無い事……空間魔法で瞬間転移したみたいなのだから、突然現れた馬車に驚くのは当然だ。