「嘘も大概にしてください! あれは確実に彼女に手を上げようとし──」
「王女殿下は何一つとして嘘は仰ってませんよ」

 男がまた大きな口で叫ぼうとした時。突然どこからとも無くケイリオルさんが現れたのだ。これは、まさかまさかの救いの手だ。
 男は開いた口が塞がらないまま固まり、私はケイリオルさんの登場に内心非常に驚いていた。

「ケイリオル、卿……どうしてここに?」
「王女殿下がついに城にお越しになられたと聞きまして、折角ですのでご案内でもしようかと思い…しかしいざ王女殿下を探していると何やら口論が聞こえたもので」

 布で表情が見えない分、ケイリオルさんは身振り手振りで感情を伝えようとしていた。そして、チラリとケイリオルさんは固まる男の方を向いて、

「……財務部所属二等文官ボーラス・ゼンド。貴方はいつまで王女殿下に無礼を働いているのか──疾く、手を離しなさい」

 と背筋が凍えるような低く冷徹な声で告げた。
 男……名前なんだっけ、さっき聞いたのにもう忘れた……あー、ボーナスだっけ? ボーナスでいいか。
 ボーナスは慌てて私の手を離した。ようやく解放された手首には赤い痣が出来てしまっていた。