「…………この国の者は、皇族への敬服すらまともに出来ないと言うのか? 貴殿が今、無体を働いている相手こそが敬い尊重すべき皇族──帝国唯一の王女殿下だと言う事を、理解していないのか?」

 眉尻を上げ露骨に怒りを露わにするマクベスタの姿に、男はあっさりと気圧された。
 しかし男は手を離さなかった。寧ろ、男の手に込められた力は更に強くなった気がする。
 さてこのままではマクベスタまで野蛮王女と共に謗られる可能性がある。それは避けねばなるまい。
 仕方ない……と小さくため息をついた私は、まずマクベスタに向けて言った。

「別にいいのよ、マクベスタ。私が皇帝陛下と皇太子殿下……あぁ後、この城の人達から嫌われてるのは事実だし、皇族失格と人々に言われているのも知ってるわ。だから私が突然謂れの無い事で貶されようと咎められようも暴力を振るわれようと仕方の無い事なのよ」

 ふと気づいた。よく小説や漫画で見た悪役令嬢達……彼女達が敵に嵌められて断罪される時って、きっとこんな感じだったんだろうなと。
 彼女達の場合このまま断罪追放、またはイケメンによる救いの手があったりするのだが……私はその救いの手を振り払ってしまった。ただ、マクベスタを巻き込みたくなかったから。
 なのでここは何とか一人で切り抜ける必要があるのだが、果たしてどうしたものか。
 色々と言いたい事はあるのだけど、ここで何か行動を起こす程それは悪評として捻じ曲げられた噂が広まる事だろう。貴族社会は大概そんなものだ。
 ならどうしたものか……と頭で考えつつ、次は男に向けて話す。

「貴方は私《わたくし》に何を求めているのかしら。謝罪? それともほんのお気持ち? 謝罪をして欲しいならそう言って頂戴。一体どのような罪状で私《わたくし》は貴方に許しを乞う必要があるのか」
「なっ……それは他ならぬ貴女が分かっている事でしょう?! 貴女は噂同様気に入らない侍女に手を上げようとした、それも何も罪を犯していない侍女に!! そして彼女は貴女に酷く脅えあんなにも顔色を悪くしているのですよ!?」

 男が大きく口を開けて必死に語っているからか、唾が飛んで来そう。
 自分にかかったら嫌だなぁ、もう唾は消滅させとこう。と私はこっそり魔法を発動して男の口から出た液体を瞬時に蒸発させた。
 片手間でそんな事をしながら私は男の熱弁に返す。