真相はまた追々……と一旦この事は置いておいて、私はマクベスタと共にケイリオルさんの所へと向かった。
 シュヴァルツの存在はこの城にいるほとんどの人に明かされていない。そんな状況で連れ回すのは良くないと判断したのだ。なので、彼には私の部屋で留守番をして貰っている。
 私へと下されていた皇宮から出るなと言う命令は解かれ、一応、私はもう王城にも足を踏み入れてよい事になっている。

 だがまぁ、野蛮王女などと揶揄されるようなお飾りの嫌われ王女が突然現れて、いい顔をされる筈も無く。
 すれ違う人や私の姿を見た人達は皆一様にひそひそと小声で話しながら、嫌悪や好奇の視線をこちらに向けて来た。しかしそれも気にせず私は進む。
 しかしふと用事を思い出し、途中で一度足を止め、私は近くにいた侍女に声をかけた。

「ねぇ、そこの貴女。聞きたい事があるから大人しく答えて頂戴?」
「ひぃっ!?」

 私に声をかけられただけなのに、侍女が顔を青くして悲鳴を上げた。
 そんな怯えられるような顔してる……? と不安を覚えつつ、私は目的の為に彼女に聞く。

「ケイリオル卿の執務室がどこにあるか教えてくださる? 今、探している所なのです」
「え、あ……ぁ、ぁあ……っ」
「聞いてるのかしら?」

 目の前の若い女性は顎を震えさせて、カタカタと歯で音を鳴らしていた。今は別に剣も持っていないのに、どうしてこうも怯えられてしまうのか。
 それにしても本当に顔色が悪い。もしかしたら体調が悪いのかも……そんな時に野蛮王女と出会ってしまったから……みたいな?

「ねぇ、貴女……顔色が悪いけど体調が悪いんじゃぁ──」

 酷く青ざめている侍女の顔に手を近づける。しかしその時、突然文官のような男が横入りして私の手首を掴みあげた。

「いっ……た……」
「王女殿下……っ! 貴女と言う方は何の罪も無い侍女にまで手を上げるのですか!?」

 正義感に満ちた面持ちで男は叫んだ。……また? 何を言ってるんだこいつは、何もかもが意味不明なんだが。
 前提として私は手を上げようなんてしてないし。と言うかこいつ不敬では? こう見えて私、一応皇族なんだが?
 掴みあげられた右手首が握り締められ、ちょっとした痛みを覚える。だがまぁ、足を剣で刺された時に比べたら大した事はない。

「皇帝陛下の城に勝手にやって来ては傍若無人に振る舞うなど……! 皇族としての品位に欠けます!!」

 何がしたいんだこいつはと思いつつ、私が黙って男の顔を眺めていると、それをいい事に男はどんどん話を変な方向へと進めて行った。
 と言うか、貴方の言う通りこれでも一応皇族なんだけど? それなのに城に来ちゃいけない訳? もう外出禁止は解かれたんだから勝手でも無いのよ別に。
 苛立ちから歪みそうな表情を必死に正す。
 それにしても……何とも不可解な事に、男の言葉に周りの者達も同意しているらしい。
 これは困った。周りが全て敵じゃないか。
 そう、割と困っていた時……マクベスタが痺れを切らしたように口を切った。