「…………庭園の前で何をしているんだ」

 何故病欠のお前がこのような場所に、と問いただす。すると妹は、全く動揺する様子も無く粛々とお辞儀をして、

「…………申し訳ございません、兄様」

  いつものように忌まわしい視線をこちらに向ける訳でも無く、ただ謝罪だけをした。
 何だこの異変は。まるで別人だ。馬鹿の一つ覚えに付き纏われなくなるのは非常に助かるが、いくら何でもこの様子はおかしい。

「僕はここで何をしていたのかを聞いたんだ。聞かれてもない事を答えるな」

 柄にもなく、僕が動揺してしまった。
 妹との距離を詰め、いつもの様に見下ろしていると……。

「……散歩していた際に、偶然ここを通っただけです」

 妹は見え透いた嘘をついた。お前は今日、病欠という話だっただろう。それなのになんだ……本を持って散歩? 僕を馬鹿にしているのか?

「そのような本を持ってか」

 頭を下げ続ける妹の後頭部に冷たい視線を落としていると、突然妹が顔を上げて、

「別に私がどこで何をしていようと兄様には関係ないかと。そもそも、兄様は私に興味など欠片もないでしょう? 私を疎ましいと思っているのでしょう? ならば、私に関わらないで下さい。私も兄様には関わらないようにしますから」

 強く、そして冷ややかに僕の目を睨んで言い放った。
 それにはさしもの僕も頭を鈍器で殴られたような衝撃を受けた。……反抗した、あの妹が? 僕に?
 何なんだ、この違和感は。これは本当に……僕の妹なのか?