「……師匠、貴方はこの世界でどれだけ行動が制限されていますか」

 とにかくやれる事からやっていかないと。今は一刻をも争う状況なのだ。
 そう思い、私は師匠に確認を取った。シルフ曰く、精霊さんはこの世界であまり自由に動き回れないそうなのだが……もし、師匠が広範囲の移動が可能なのであれば、頼みたい事があるのだ。

「俺は召喚された訳じゃァなくて自力で来てるんで、自分の力がもつ限りは何処へでも行けますよ。ですが、それがどうしたんすか?」

 師匠が首を少し傾げた。そんな師匠の目を真っ直ぐと見つめて、私は頼み事をする。

「頼みがあるの。今から私が書く手紙を──神殿都市のある人まで届けて欲しい」
「神殿都市……っつぅと、何とかって宗教の聖地っすか?」
「えぇ、そうよ」

 神殿都市……それは国教会の聖地であり本拠地。白亜の巨大な壁に囲まれた、大神殿を中心とした円形都市。
 国教会の中でも聖人に手紙を見せる事さえ出来れば、高確率での大司教の派遣を期待出来る。
 何せあの人──国教会の誇る聖人ミカリア・ディア・ラ・セイレーンは、人並みの優しさを持つ男だから。事実上の国教会のトップたるミカリアを動かす事が出来たならば、きっと……大司教を派遣して貰う事だって叶うはず。
 そしてフォーロイト帝国の名前を使えばその確率が上がる、と信じている。

「分かりました。誰に届けりゃいいんすか?」
「神殿都市の中心部……大聖堂の最奥に居る人類最強の聖人、ミカリア・ディア・ラ・セイレーンに」

 私がその名前を口にするとマクベスタが勢いよく振り向き、不可能だと言わんばかりの面持ちと共に無言で訴えかけてくる。
 確かに……表舞台に姿を現す事は無く、国教会の熱心な信徒であろうともそう簡単には会えず、面会出来るのは大司教や枢機卿のみと言われる国教会の聖人に手紙を渡すなど、いくら私が皇族でも不可能な話だ。
 しかしそれは、私がただの皇族であったならの話。今の私には──心強い味方がいるのだ。