「本当に鬱陶しい話ですよね、自分勝手で迷惑極まりない。で、その後精霊王から魔眼の管理に適した属性の精霊にその仕事が下されたんですよ。なので、延焼の魔眼は俺のものみたいな感じなんです。本っ当に最悪な事に、延焼の魔眼とか……他の火関係の魔眼は火の魔力とちゃーんと相性バッチリですし」

 はぁぁ……と大きくため息を吐きながら、師匠が手のひらに何かを出現させる。それらは暫く炎を纏っていたものの、程なくしてそれらは姿を見せる。
 それを見て、私は叫び声を上げそうになった。目を見開き、師匠の右手を凝視する。目を逸らしたいのに何故か目を離せない。

「──これが俺が管理してる魔眼ですよ。延焼の魔眼、爆裂の魔眼、太陽の魔眼……お嬢さんは知ってるかと思いますが、全部ろくでもない魔眼っすね」

 師匠の手のひらの上で、三つの眼球が太陽のように僅かな火を纏い浮いていた。
 メイシアのような赤色の眼と、鮮やかな橙色の眼と、太陽のような黄色の眼。
 両眼ではなく片眼ずつではあったが、三つの眼球が浮かぶ様はとても異様で、何故か目を奪われてしまう。
 とても気味の悪い光景……突然こんなものを見たのに、どうして私はただ驚くだけなの? どうして目を逸らせないの、どうしてあれを綺麗だと思ってしまうの、どうして、どうしてどうしてどうして──。

「ああいけない。姫さん、もう見ちゃ駄目ですよ。魔眼に魅入られますから」
「……っ」

 師匠が魔眼を消した直後、突然体の自由が戻る。自分がつい先程何を考えていたか、それを思い出して若干の吐き気を覚えた。
 だがそれもすぐに収まった。どうして私は、眼球を見ただけであんなにも変な気分になったのか。
 それに……普通なら恐怖心を抱いてもおかしくないだろうに、私はそれを抱かなかった。ただ、突然眼球が現れた事に驚いただけだった。
 これもフォーロイトの血筋の影響なのか? 氷の心を持つ冷酷無比な一族の……そう考えると、途端に虚しくなる。私にはある状況下において人間らしい反応や生き方が出来ないのだから。
 アミレスも、そんな状態で生きてたのかな。

「姫さん大丈夫っすか? まさか魔眼の効果がここまで……」
「っ、いや大丈夫よ。ちょっとぼーっとしてただけだから」

 私の体調を疑う師匠に大丈夫だと何度も繰り返す。暫し本当に大丈夫だと繰り返してようやく彼は「……そっすか」と納得してくれた。
 そしてその後師匠が近くまで歩いてきて、私達のすぐ側で膝を折った。

「……さて、お嬢さん。その魔眼が要らないのなら、一旦俺が預かるけど、どうする?」
「…………え?」

 師匠の言葉にメイシアが反応した。少しだけ顔を上げて、弱々しい赤い眼で師匠を見る。

「魔眼はその人間の魔力炉と繋がってっから、生きている間に完全摘出しようとすると死に至る。だけど魔眼の管理権限のある俺なら、一時的にその魔眼を──魔眼の力を預かれる。お嬢さんが本当にそれを必要としていないのなら、だけどな」

 メイシアの眼が溢れんばかりに見開かれる。
 もしかして……師匠がメイシアに正体を明かしたのは、メイシアがあの魔眼を疎んでいた事に気づいたからなのかもしれない。
 その為、メイシア自身が誰よりも疎み恐れていた魔眼を、師匠は一時的にだが預かると提案したのだろう。
 それは私としてもとても喜ばしい事で、さっきから少し下がり気味だった師匠の株がぐんと上がった。
 これでメイシアの重荷が減って彼女がもっと生きやすくなるのなら……私としては本当に嬉しい事なのだ。
 ──しかし、メイシアの答えは私の想像とは全く逆のものだった。