「……何処に行くつもりだ。お前は外出を制限されていた筈だが」
「ご安心を、きちんとケイリオル卿から許可は頂いております。では、私は失礼致しますわ。先を急いでおります故」

 十四歳になったフリードルは更に美しくなった顔で、冷たく威圧的に私を見下ろし行く手を阻んだ。
 さっさとそこどけよと言いたい気持ちをぐっと堪え、優しい私はオニイチャンの疑問に答えてあげる。
 ぺこりと一礼し、フリードルの横を通り過ぎようとしたら、突然フリードルに手首を掴まれた。
 引っ張られるように振り向くと、フリードルが煩わしそうに眉を顰めていて。

「何処に行くのかと聞いている」

 は? それわざわざあんたに言う必要のある事なの? 私達そんな親しい仲じゃないでしょ。
 面倒臭い男だなと心の中で舌打ちをしつつ、私はフリードルを見上げる。

「…………お忙しい兄様には、関係ない事だと思いますわ。お言葉ですが、私に一抹の興味すらも無い兄様が私の行動を気にするなどおかしな話だと……愚かな私ですらも気づく事です。それに聡明な兄様が気づかない筈がありませんよね。それはそうと、早く手を離して下さいませんか? このままですと……私と兄様の仲が良いなどというくだらない噂が立ってしまうやもしれませんから」

 決して笑みを絶やさず、私は大人の対応を見せる。
 例え噂であろうとも……フリードルと仲が良いとか思われたくない。それなら野蛮王女と揶揄される方が何億倍もマシというもの。
 しかしそれでもフリードルは私の手を離さない。相当な冷え症なのか、それとも魔力の関係なのか分からないけれど、フリードルの手は人体とは思えない程に冷たい。
 あんたに掴まれた左手首がそろそろ凍りそうだから離して欲しいんですけど。それともあれか、氷の魔力を持たない私への当てつけか?? いい性格してやがるなおい、でも私だって氷なら作れるんだからな‼︎
 いかんいかん、少し荒ぶってしまった。しかしこのままでは埒が明かないので、ここは大人な私が先に折れてあげようじゃあないか。