そしてその日の夜。大人だけで祝宴と洒落こんでいた。
 紛れもなく俺達の人生の転機となるこの日を祝わずして、いつ祝うのかと言う話になり……ガキ組と下戸を引き取って行ったクラリスとバドールを除いた、俺とラークとシャルルギルとイリオーデの四人だけで酒を飲んでいた。
 いつもの安酒ではあるのだが、それでも何故か今日はとても美味く感じた。ラークが用意してくれたつまみを食べてから酒を呷り、その美味さに頬を緩める。
 そんな時、ラークがイリオーデを見てふっと口角を上げた。

「……イリオーデがそんなに飲むなんて珍しいね、どうしたんだ?」

 イリオーデは別に酒に弱い訳では無い。寧ろ強い方だ。しかし、酒を飲む時は何故かいつも少量に留めているのだ。
 そんなイリオーデがいつもの倍は飲んでいる姿に、俺達は確かに目を疑った。そりゃあ、何かあったのかと確認したくもなる。
 イリオーデは少し朱に染まった頬を柔らかく崩して、

「…………ずっと会いたかった人に会えたから、嬉しくて」

 と呟いた。それを聞いた俺達はどう言う事だろう、と顔を見合わせる。
 なので、俺達を代表してシャルルギルがそれについて深堀する事になったのだ。

「会いたかった人とは、もしや王女様の事か?」
「ああ」
「知り合いだったのか?」
「……いや、私が、一方的に知っているだけだ」
「何故彼女に会いたかったんだ?」

 シャルルギルがどんどん言及してゆく。寡黙なイリオーデも今日はやたらと饒舌で、聞かれたままに答えていっているようだ。
 その様子を、俺とラークはただ見守るだけだった。

「前に話しただろう、私のたった一つの目的…どうしても騎士として仕えたい相手──それが、王女殿下だったんだ」

 それはイリオーデと出会ったばかりの頃に聞いた、あいつにとっての大事な生きる意味だった。その為に生きる必要があると言う程に……。

「あの御方を一目見て、王女殿下だと分かった。だからこそとても戸惑っていた……どうにかして王女殿下の騎士にならねばと、柄にもなく事を急いてしまった」
「……あの忠誠を誓うみたいなやつは、もしかしてそれだったり?」
「そうだ」
「成程ねぇ。それで嬉しくて酒いっぱい飲んでるのかぁ、イリオーデは」

 ラークが楽しそうに笑う。シャルルギルは何も考えていなさそうな顔でぽかーんとしている。

「これからは王女殿下の騎士として生きていけるのだと思うと、天にも昇る思いだ……」
「はは、正確には騎士じゃなくて私兵だけどね」
「何だっていい。あの御方の剣として、永遠の忠誠を誓えるのなら」
「うーん、重いなぁ〜!」

 ラークの軽快な笑い声が静かな夜に響く。その笑い声に釣られてシャルルギルまでもが小さく笑い始めた。
 全員が酔っているからかそれを止める者は一人もおらず、いつになく明るい雰囲気のまま夜は更けていった。

 ──あぁ、今日も、月は綺麗だな。
 イリオーデ程では無いものの、俺も胸中に勇敢な少女への忠誠を抱きながら……月を見上げていた。