「──メアリー、シアン。歳下の王女殿下にここまで言わせて、満足か」
「……ぅ……っ、だってぇ……!」
「……僕達、悪くないもん……っ」
「……王女殿下が寛容な御心で許してくれたのだぞ、それなのに謝罪も無しか」

 いつになくイリオーデの機嫌が悪い。いや、これは寧ろいいのか……? わからん、長い事一緒にいるがイリオーデの事は未だによく分からん。
 あいつにとって大事な事は目的とやらだけ。それだけは確かなんだが……。
 涙目の二人相手に説教を行おうとするイリオーデに、相変わらず俺達に妙に甘い殿下の待ったが入る。

「あの、謝罪はいらないので。二人が言った事は確かに正しい事だし……そりゃあ確かにちょっとはイラッとしたけれど……でも二人に取り立てて責めるような非は無いと思いますよ、私は」
「……本当に宜しいのでしょうか? この二人は王女である貴女様に無礼を働いたのですよ」
「私が無礼と思っていないから問題無いのでは? 公の場ならまだしも、ここはディオの家ですし」

 その時、イリオーデの表情が少し柔らかくなった気がした。
 あいつが笑うなんて珍しいな……と思いながら眺めていた所、イリオーデが驚きの行動に出る。なんと突然殿下の前に跪いたのだ。
 そして、深く頭を垂れてあいつは言った。

「……メアリーとシアンを許してくださった事、心より感謝致します。私はイリオーデ、慈悲深き王女殿下に忠誠を誓いたく申し上げます」

 そこだけ確かに世界が違った。俺の家の筈なのに、イリオーデと殿下だけは、城で姫君に忠誠を誓う騎士のように見えてしまった。……場所が悪いだけで、実際その通りなのだが。
 何の脈絡もないイリオーデの突飛な行動に、俺達は全員口を揃えて叫んだ。
 しかしそのすぐ後、殿下がえっへんと胸を張り、俺達に向け宣言した。

「実はね、私──皆を雇う事にしたの! ……本当は騎士として重用したかったんだけど、騎士は騎士団登用試験を通過しないと名乗ってはいけない上、そもそも私は騎士を持つ事が許されてなくて。だからその代わりに、王女の子飼いの私兵って言う名目で皆に安定した給料と名誉を与えたいなと」

 殿下は侍女が懐より取り出した許可証を見せつけるように掲げている。どうやら、殿下は本気らしい。
 同情とかではなく、ただ真剣に俺達を雇おうとしているらしい。