「──王女とか王子が軽率にこんな所に来んじゃねぇーッ!!」

 俺の心からの叫びに、殿下はハハハ……と乾いた笑い声を漏らしていた。
 その後、殿下が俺達に話があるとかで、ラークがそれぞれ自由に過ごしているあいつ等を呼びに行った。暫くして帰って来たラークはきちんと全員連れて来ていたので、とりあえず俺は他己紹介から入る事にした。
 ……そう言えば、なんかイリオーデが殿下の顔を見た時一瞬動揺してた気がするんだが、何でだ?
 まぁいいか。殿下の紹介をした所、全員が驚いて目を点にしていた。さっきの俺ってこんな感じだったんだな……。
 殿下の紹介を終えて、今度は俺達の方を一人ずつ紹介していく流れになったんだが、そこで事件が起きる。
 俺達の中でも一番貴族を嫌っているメアリードとルーシアンが失礼な事を言い出したのだ。
 本人を前に何て失礼な事を言ってんだと二人を相手に凄むと、殿下からまさかの制止が入った。
 ──疎まれるのも嫌われるのも慣れてると、あいつは言った。そんなの、慣れていい筈がない。
 どうしてさっきからこいつは……何もかもを受け入れてしまってるんだ?
 次々と語られる王女殿下の本心。
 王女でありながら貴族はおろか皇帝陛下も皇太子殿下でさえも大嫌いと言い放っていた。
 とても高貴で尊い身分なのに、世間から野蛮と揶揄されている。
 皇帝陛下と皇太子殿下に不要と判断されれば廃棄される。だからいつ殺されるかも分からない。
 それでも死にたくないし幸せになりたいから、必死に足掻いているのだという。
 どうして、この国の唯一の王女殿下がそんな状況を生きているんだ。意味がわからない。

「貴女達の思う貴族や皇族として私を見るんじゃなくて、今貴女達の目の前にいる私自身を見なさい。確かに私は自分勝手で馬鹿な王女だけど……少なくとも、貴女達の思うような貴族達とは違う事を知って欲しい」

 貴族が嫌いと、真正面から批難するメアリードとルーシアンに向けて、殿下は言った。怒るでも無く、懇願するでも無く、ただ語りかけるように。

「それでもどうしても貴族が憎いとか、許せないとか、そう思うなら──いくらでも私を憎みなさい。貴族達はどうせ身に覚えが無いとかふざけた事を吐かすでしょうから、貴方達の怨憎が失われないよう、王女として私が矢面になるわ……責任を持って、最後まで貴方達の必要悪でい続けてみせるから」

 あぁ俺は……俺達は、この国は、どうしようもなく腐ってる。たった十二歳の幼い姫君に、こんな事を言わせてしまうなんて。
 守られるべき、尊重されるべき御方に、こんな役割を押し付けて……この国の大人達は最低じゃないか。
 よりにもよってあの王女殿下に……この国は酷い役割と責任を押し付けた。これは、どんな罪よりも重い罪である事だろう。
 傲慢さの欠片も無く、寧ろ不自然なくらいの普通さを持つ明らかに非凡な少女……そうか。あの剣は、泥沼のような環境を生き抜く為に身につけたものだったんだ。
 そうでもしないと生き抜けないなんて、本当に皇宮は地獄のような場所なんだろう。身分の低い俺にはその想像すらまともに出来ないが……その過酷さは、何となくだが察する事が出来る。
 この国の王女殿下ともあろう御方にここまで言わせてしまい、俺達は口を開く事が出来なくなっていた。さしものメアリードとルーシアンとてこれには泣きそうな顔で黙り込んだ。
 そこで、ずっと沈黙を保っていたイリオーデが、この冷えた空間に変化をもたらした。