「一応は皇族ですけど、少なくともディオさん達の前にいる時はただのスミレとして振舞ってるつもりです。突然王女扱いされても困ります」
「っあー……困ったなァ……」

 何度も一応なんて言葉を口にする変わり者過ぎるこの王女殿下に、俺はもはや何も考えずただ頭を抱えてしまった。
 王女殿下を王女扱いしないとか、俺達の首が飛ぶまで何秒かかるかの無意味な検証でしかねぇんだよ。
 どうしたものかと思い悩んでいると、王女殿下が自分の髪を強調して自慢げに言った。

「ごほん、これでどうですかディオさん。今の私はどこにでもいるごくごく普通の平凡な女・スミレですよ!」

 どう言う仕組みかは知らないが、王女殿下の髪は明るい桃色に戻っていた。いや、変わったの方が正しいな。元の髪色は銀色だろうし。

「……お前のどこが平凡な女なんだ……ああもう、分かったからとりあえず、俺達をさん付けで呼ぶな。敬語も使うな。つぅかそもそもなんでお前は俺達相手に敬語なんて使ってたんだよ」
「年上に敬意を払うのは当然でしょう?」

 貴族社会の頂点に立つような王女殿下が、さも当然かのようにこんな事を言うなんて誰が予想出来るだろうか。多分誰にも不可能だろうと思う。

「……とにかく敬語とさん付けはやめろ、俺達の寿命が縮むんだ」
「………分かったわよ。ディオ、これでいいの?」

 その皇族らしからぬ姿勢に感心したものの、やはり皇族に敬語とさん付けで話しかけられるのは心臓に悪い。なので俺は話の流れでそう頼み込んだ。
 ようやく敬語とさん付けをやめてくれた王女殿下を見て、俺とラークはとりあえず胸を撫で下ろした。一瞬顔を見合わせて頷きあったのだ。
 その後王女殿下より……ってか、王女扱いするなとか言ってたけど……王女殿下って呼んでたら不味いか、これ? じゃあ何て呼べばいいんだよ。
 情報量が多すぎて頭が働かん、もういいか、普通に殿下って呼ぼう。
 そして殿下は侍女に続き金髪のガキの事も紹介してくれた。名前はマクベスタ・オセロマイト……つまりオセロマイト王国の王子だ。
 こんな貧民街に大国の王女殿下と隣国の王子が護衛も無しにいるなんて…………うっ、途端に胃が締め付けられるように痛み始める。
 キリキリと痛む腹部にそっと手を当てて、俺は叫んだ。