「ディオさん!」

 桃色のふわふわとした髪を揺らして、派手ではないものの……貴族らしいドレスを着た女が、俺の名前を呼びながら輝くような笑顔で大きく手を振って近寄って来た。
 本当に来るのか、つぅか来んの早くね、と驚いた俺から咄嗟に出た言葉は、お前何でここにいんだよ。と言うものだった。
 そのガキは約束したから、と笑ったんだが……この言葉に俺が困惑したのは言うまでもない。
 そしてふとスミレの後ろを見やると、あの夜にもいた変なガキと、侍女の服に身を包んだ美女と、高貴な身分である事を隠そうともしない服装の金髪のガキがいた。美女と金髪のガキは俺の事をキツく睨んで来る。何でだ。
 と思っていると、丁度スミレからその二人についての簡単な紹介があった。侍女と友達だそうだ。
 あいつ等の関係性にはさほど興味が無いが、スミレが一人で貧民街に来る事にならなくて良かったと俺は安堵した。

 そして面白い事好きなラークがスミレと出会ったりして道端で立ち話をしていると、スミレの侍女が落ち着いて話が出来る場所はと聞いて来た。
 俺はすぐさま家に案内し、とにかくラークに気を配ったもてなしをするよう頼んだ。何せ相手は貴族様だ、そう言うのを気にする性格では無いだろうが、やはり粗相が無いに越したこたぁない。
 ラークが茶の用意をしている間、俺達は軽く話していた。スミレから解放したガキ共がどうなったかと聞かれたのだ。
 それに俺は、大半は家まで送ってやれたが残りは家が無くそして孤児を受け入れられる施設も無い……と行き詰まっている事を話した。
 するとスミレがいい案があると言った。それに俺は強く反応したのだが……スミレの提案はかなり不可解なものだった。

「実は私、ここに孤児院を建てるつもりなんです。孤児院だけじゃなくて大衆浴場とか診療所も建設予定ですね」

 正直、何言ってんだこいつはと思った。貧民街に孤児院を建てる……? 大衆浴場と診療所ってそもそもなんなんだよ……?
 こんなガキが建設予定とかなんとか堂々と宣う姿は酷く異様で、俺とラークは失礼にもつい、は? と言葉を漏らしてしまった。
 更に追い討ちをかけるようにスミレが貧民街の責任者から許可も取ってるとか言い出して、こいつは本当に何者なんだと俺達はますます混乱した。
 きっとこいつにとって大した得にもならないであろう、孤児院の建設やら貧民街の奴等への働き口の提供を進んでやる姿は……慈善活動だと上辺だけで粋がる貴族達よりもよっぽど善良で眩しく見えた。
 だからか……俺はつい聞いてしまった。このガキが分からなくて、俺にとって理解し難い存在だったから。
 どうしてお前はそこまで人の為に動けるんだと。
 それを聞いた時、スミレは笑った。作戦が成功した時のやり切った笑みでも、別れを告げる時の子供らしい笑みでも友達と話してる時の可愛らしい笑みでもなく、とても落ち着いていて穏やかな──完璧過ぎる作り物の笑顔だった。