「お前まさかまだあのガキの事諦めてねぇのかよ!?」
「当たり前じゃん! あと、ガキじゃなくてメイシアちゃんね、メイシアちゃん!! だって運命だよ、アニキ! オレ達あんな運命的な出会いを果たしたんだからもう結婚しなきゃでしょ!!? ……あぁ、愛しのメイシアちゃん……今頃何してるのかなぁ……オレは今君の宝石のよりも美しい瞳と似た花を愛でて心の寂しさを埋めているよ……っ」
「うっわぁ……………………」

 本気で引いてしまった。なんだこいつ本当に気持ち悪いな。思考が完全に変態犯罪者のそれだろ。
 つーかお前の花の愛で方は花びらをちぎる事なのか? 何、お前そんな物騒な思考回路してたのか??
 長い付き合いの家族同然の相手でさえこんな風に思わせるとは、エリニティも恐ろしい才能を持っているな……。
 あの時スミレに懲らしめてもらっときゃ良かったな……でもあん時はあいつも怪我してたし治療優先で……あー、どうすりゃよかったんだよ。
 後でイリオーデに記憶を消す方法が無いか聞いてみるか…………?
 そうやって悩んでいると、バドールとクラリスがうちにやって来た。バドールの持つ袋から何やらいい匂いがする。

「……ディオ、大通りで肉串を買ってきたから皆で食べよう」

 と言いながらバドールが湯気の立つ肉串を手渡してきた。肉串は、火で炙られた鶏肉に爽やかな果汁をかけたもので……俺達のたまのご馳走的立ち位置の食べ物だった。
 だがしかし。昨日、スミレの言う通り、あのクソ野郎を警備隊に突き出した後、クソ野郎に関する調査が城で行われた結果……クソ野郎は投獄。
 更に俺達は厄介な奴隷取引の拠点から子供達を解放した事も何故か讃えられ、謝礼金が本当に貰えてしまったのだ。
 用心棒をしていた給金は貰えなかったものの……想わぬ臨時収入、氷金貨二枚と氷銀貨五十枚と言う大金に俺達は目が眩みそうになった。
 それにより、今日俺達は今まででは有り得なかった贅沢をしてしまっている。
 一本氷銅貨二十枚はするあの肉串を、なんとバドールは十本も買っていたのだ。普段なら貯金しねぇとなって思って一本買う事さえ迷うあの肉串をだ! 単純計算でも氷銅貨二百枚分または氷銀貨二枚分と言う大きな買い物をしたのだ!
 何という贅沢……ッ! 日々氷銅貨三十枚とかで買える食材や森で見つけた野草に木の実を使った創意工夫の料理ばかり食べている俺達からすれば、まさに贅沢中の贅沢というもの!!
 人は財を持つと変わると言うが、確かにその通りだ。まさかあの慎重なバドールがこんな大胆な事をするとは……!

「ん〜っ、やっぱり肉串は美味いわね!」
「まさかたらふく肉串を食える日が来るとは」
「誰かの誕生日でもここまで肉串食わねぇしな」

 熱々の肉串を頬張りながら、俺達は幸福な気持ちに包まれつつ話していた。
 俺達の主な収入源はドブ掃除や大通りの屋台の手伝いなど。大体日毎に給金が貰えるのだが、ドブ掃除は良くて氷銅貨四十枚。屋台の手伝いも氷銀貨一枚程。
 俺達はこれらの金で自分達用の食材を買ったり、街のガキ共の為の食べ物や服を買ってやったりしている。勿論ガキ共だけでなく、俺達それぞれの服やら生活必需品やら武器の手入れが出来る物やら……色々と用途が多いのだ。
 残りの金は全てもしもの時の為の貯金に回している。数年前に大寒波が来てやばいってなった時に有り金をほぼ全て使って服やら布やら買った為、貯金の大切さは身に染みている。
 だからこそ、肉串を買いまくるなんて真似……普段なら絶対に出来ない贅沢なのだ。
 そもそも俺達は質素倹約がモットーだしな。もしもに備えるに越したこたぁねぇんだよ。