あの後私は、もうフリードルに会いたくない。という一心で早々に探索を切り上げて部屋に戻った。
 部屋に戻った私に待っていたのは、突如砕け散り消え去った扉をどうするかという問題だった。どう言い訳すればいいのかと考えあぐねていたところ、恐る恐ると言った風にシルフが、

「……ボクで良ければ直そうか? それぐらいなら、多分、干渉しても大丈夫だろうし」

 そう提案してくれた。私はそれに、藁にもすがる…いや精霊さんにもすがる思いで乗っかった。
 そしてシルフが扉を魔法で直しているのを見ながら、私はフリードルとの邂逅を思い出す。
 ……ついにアンディザの攻略対象のうちの一人と出会ってしまった。それも(アミレス)の死に直結しているような男と。
 そりゃあいつかは出会うと思っていたけれど、だとしても早すぎる。どうしてこんな幼少期から対立構造を作ってしまったんだ私は……いやまぁ、フリードルがあの性格なのだから仕方の無い事と言えばその通りなのだけれど。
 恐らく、これからも私の意思とは関係なしにフリードルと関わる事になるだろう。もちろん……皇帝とも。
 それを避ける事はほぼ不可能に近いし、今の私にはなんの力も無いからいざと言う時に逃げ出す術も抵抗する術も無い。
 だからこそ私は力をつけなければならない。魔法を習得し、剣を会得し、知識を得なければならない。この世界で生きていく術を知る必要がある。
 例え皇帝やフリードルであれども脅かせない程の地位を手に入れる必要もある…………そう簡単には私を殺せないようになるぐらいの、地位か名誉が欲しい。
 皇帝が私を殺そうとするのがゲーム通りならば、私にはまだ十年近い猶予がある。……その間に、何とか皇帝でさえも気軽に殺せない存在になるように努力をしなければ。

 後、それとは別に……やはり私は、攻略対象達やサブキャラクター達の未来を守りたい。
 ヒロインではない私に、いつかの未来で彼等を救う事は出来やしない。だけど……まだ起きてもいない悲劇から彼等を守る事ぐらいなら、きっと私にだって出来る。
 起こると分かっている悲劇をみすみす見逃すなんて真似は私には出来ない。かつて愛したゲームの大好きな人達だからこそ、可能な限り誰しもに幸せになって欲しい。
 だから私は……彼等の未来を守る。未来のシナリオの中で、彼等の心に巣食う闇が少しでも減るように……彼等が苦しまないでいいように、私は彼等の未来を守ろう。
 少しでも、彼等の未来が明るく幸せなものになるように。
 ……きっとそれが、私の幸せにも繋がると信じて。私は改めて強く決意する。

「アミィ、扉の修理が終わったよ。この通り綺麗に元通りさ」

 シルフの自慢げな声が部屋に落とされる。そんなシルフの様子を表すかのように、光は右へ左へ飛び回っていた。

「ありがとう、シルフ。これで怒られないで済むよ」
「…………元はと言えば……ボクのせいだから、ね……」

 私がお礼を告げるとシルフが物凄い小声で何かをぶつぶつと呟いた。
 何か言った? と聞くとシルフは慌ただしくそれを否定した。多分、私に聞かれちゃ不味い事でも呟いちゃったんだろう。