「かつて帝国で人身売買が徹底廃止されるよりも前の時代に売人の間で使われていた隠語……合言葉のようなものがある。売人を鶏、客をヒナ、商品を卵と当時は呼んでいたらしい。人身売買が徹底廃止されたこの時代にも、奴隷の人身売買と同様に残っている事だろう」

 元四大侯爵家の令息のイリオーデがそう言うんだから、俺達も知らないような帝国の歴史にそのような部分があるのだろう。
 そしてなんと、その隠語を聞いて俺は酒場のおっさんの言葉を思い出したのだ。

『──なぁに、ただの卵の取引だ。そんな気ぃ張るなよ、坊主』

 それを聞いて俺は貴族が貴重な卵の取引をしているんだと勘違いしてしまった……実際はそんな事は全く無く、こうして人身売買の拠点に来てしまった訳だが。
 酒場のおっさんに卵の取引をすると言われた事をイリオーデに話すと、ラークが「やっぱり」と呟きながら腕を組む。

「その男は最初から話していたんだ。俺ですらイリオーデから聞いてたからかろうじて知ってるって程度だし、何も知らないディオが隠語だと分からないのは仕方の無い事だった……だからこそ、もし詳細を聞こうとしていても得られるものは何も無かった筈だ」
「……ならば、ディオだけが悪いと言う結論には至らないな。このような場合を想定して、ディオにも事前にこの事を話しておかなかった私にも責任がある」

 そう言って、イリオーデが青い髪をさらりと流して頭を下げた。
 ラークもまた同じように頭を下げた。「俺もその時その場にいたら良かったんだ」とたらればの話をしながら謝ってきた。
 本当に、何でこいつ等はこう……と感情が溢れて出てしまいそうになった時、眉間の皺を緩くして、シャルルギルがさらっと言い放った。

「──子供達を、俺達で助ければいいだろう。この仕事を受けてしまったのだから、俺達に出来る事と言えば機を見計らって子供達を解放する事ぐらいだ」

 その発言に俺は鈍器で殴られたような衝撃を受け、同時に希望を得た。
 ……そうだ。俺達であのガキ達を救えばいいんだ。
 そう決めたものの、ジェジとユーキが心配だった。先程のように、昔を思い出して怯えてしまうかもしれない。
 そう思ったのだが……二人は、俺達が思うよりもずっと強く成長していたのだ。