「私は今、とても気分が良い。特別にそこな亜人共の無礼も許してやろう。ふは、ははははは!」

 俺は小太りの貴族が部屋からいなくなるまでずっとずっと同じ体勢でいた。その後しゃがれた声の商人の男に俺達へあてがわれた部屋へと案内され、そして部屋には俺達だけとなる。
 誰かは分からない。誰かが口を切ろうと息を吸った時、俺はそれよりも早くに謝罪した。

「〜っ! ごめん、俺が……俺の所為なんだ……ッ!! 俺の所為でこんな仕事を!!」

 小太りの貴族に向けた時よりも深く強く、俺は額を地面に打ち付ける。
 悔しくて、悔しくて悔しくてたまらない。こんな馬鹿な自分が情けない。馬鹿な自分が不甲斐なくて仕方ない。
 そうやって奥歯を噛み締めていたら、ラークがおもむろにしゃがみこんでは俺の背中を擦った。

「……ねぇ、ディオ。君、言ってたよね。酒場で知り合った男がいい仕事を紹介してくれたって。これで金が稼げるし、皆でもっと美味しいものを食べられるって。俺さ……その話聞いた時、絶対罠だぁ……それか詐欺だぁ……確実にろくでもない仕事だぁ。って凄く思ったんだ。でも言えなかった……君が嬉しそうにしている姿を見て、水を差せなかった。君が子供達の為に頑張ろうとしているのを止められなかった。だからディオ、君だけが罪の意識に苛まれる必要は無い。だって、分かってて何もしなかった俺も、同罪みたいなものだ」

 ラークが慰めの言葉をかけてくる。
 ……お前が、誰よりも頭のいいお前が、俺と同罪な訳無いだろ。なんでそうやってお前はいつも俺を庇うような事ばっかり言うんだよ。
 誰かが俺を責めてくれた方がよかったのに、お前がいつもそうやって先回りして俺を庇うから、誰も俺を責めてくれねぇんだ。俺の間違いを、正してくれねぇんだ。
 ラークは街の大人達やイリオーデの教えもあって、貧民街で生まれ育ったとは思えない程賢い。その頭脳でいつも馬鹿な俺の事を支えてくれている。
 どうして、そんなお前が俺でも分かるような間違いを見て見ぬ振りするんだよ……⁈

「違う、あの時俺が仕事の話を詳しく聞かなかったのが悪いんだ。あれ程お前に慎重にしろって言われてたのに……っ」
「まぁ、それは確かにそうだけど……でも詳しく聞いてても結果は同じだったと思うよ」
「……は? ど、いう、事……だ?」
「そうだよね、イリオーデ」

 ラークの言葉に引っ張られて、俺はイリオーデを見上げた。そして……一度頷いてから、話を振られたイリオーデは重い口を開いた。