『私は騎士の家系に生まれた騎士だ。私にはどうしても騎士として剣を捧げたい相手がいる。それが叶うまでは何があろうと死ねない』

 今までずっと暗く澱んでいたイリオーデの瞳に、初めて光が宿った。その目的がイリオーデにとって非常に重要である事が見て取れる。
 そこで俺は感心ついでにふと思いついたのだ。

『……なぁ、イリオーデ。お前って騎士の家系に生まれたって事は剣とか使えたりするよな』
『一通りの剣は扱える。得意なものは長剣《ロングソード》だが』
『そうか! よし決めたぞ!!』

 イリオーデの返答は俺が期待していたものだった。これ幸いとばかりに俺はイリオーデに頼み事をした。

『お前、ここに住め。そんでもし良かったら俺達に剣を教えてくれ! 俺達、強くなりてぇんだ!』

 そう言いながら俺は頭を下げた。イリオーデはそれを快諾し、イリオーデもまた俺の家に住む事になった。
 その翌日から、イリオーデは約束通り俺達に剣を教えてくれた。更に、なんとイリオーデは着ていた服や持っていた装飾を売って、俺達にそれぞれ好きな武器を与えてくれたのだ。その代わりに俺のお古をくれと言われてしまった。
 貴族が着られるような服は無いんだが…と思いながら差し出した比較的綺麗な服を、イリオーデは何の躊躇いも無く着ていた。あいつはどうやら自分の事にとことん無頓着らしい。
 目的以外は基本的に興味無いみたいだ。
 そう言えば……イリオーデが身につけていたものを売ったのがちゃんとした店ではなく、胡散臭い寂れた店だった。イリオーデ曰く、正規の店で下手に売買すると足がつく恐れがあるからだそうだ。
 俺にはよく分からなかったが、万が一例の兄に探された際に見つかる可能性を減らしたかったらしい。