♢♢


 ──一方その頃、オセロマイト王国にて。
 オセロマイト王国国王ランデルス・オセロマイトは息子であり王太子の第一王子、カリストロ・オセロマイトと共に神妙な面持ちを浮かべて思い悩んでいた。
 魔力灯《ランタン》に照らされる暗い室内にて、二人の男は手元の多くの報告や資料を見て、額に脂汗を滲ませていた。

「一体どうすれば……!」

 カリストロ・オセロマイトが握り拳で机を叩きつける。その顔はとても切迫したものだった。

「……マクベスタがフォーロイト帝国にいる事が、不幸中の幸いと言うべきか」

 ランデルス・オセロマイトが顔に翳を落として呟く。彼の息子にしてオセロマイト王国の第二王子たるマクベスタは、現在フォーロイト帝国に親善で赴いている所だった。
 それが不幸中の幸いだった。もしこのままこの事態がどうにも出来なかったとしても、マクベスタさえ生きていれば……ただ一人だけでも直系の王族たるマクベスタが残っていれば、まだこの国は滅ばない。
 そう、ランデルス・オセロマイトは考えていた。

「マクベスタには普通の手紙を送った。あいつの事だから馬鹿真面目に後半年は帰って来ないだろうが……くそ、どうすればいいんだ……!! どうすれば国を守れるんだ……ッ!」

 事態はとても深刻だった。数ヶ月前より、オセロマイト王国の北部を中心に異常な速度で未知の病が大流行していた。
 どこからともなく発生したその病は、人から人へと伝染り、感染した者の全身にまるで植物のツタのような痣を作り死へと至らしめる。
 治療法も予防法も分からないその未知の病を、オセロマイト王国の人々は『草死病《そうしびょう》』と呼んでいた。
 しかしオセロマイト王国はなんとか他国に被害を出さないようにこの病と名称を中央部に押しとどめていた。
 しかしそれも難しくなりつつある。南部にも徐々に感染者が現れ始めたのだ。
 まだ他国からの旅人や客人には感染していないだろうが、最早それも時間の問題となりつつある。
 感染拡大を阻止する術は無く、病に侵された国民を治す術も無い。他国に被害を出さない為には、もう無理にでも国境を封鎖するしかないとまで彼等は考え始めていた。
 もしくは……恥を捨てて近隣諸国に助けを求めるか。
 オセロマイト王国のような小国がフォーロイト帝国のような大国に被害を与えては、今後とも庇護して貰う事は二度と叶わない。
 更に、このようなオセロマイト王国の問題にフォーロイト帝国や魔導国家クサキヌアを巻き込む訳にはいかない……と、考えてしまい、未だ決断出来ずにいる。
 最後の望みをかけて国教会に大司教を派遣してくれと要請したが……その返事はというと。