「……長い目で見ろって事だな」
「はい。今の私が貴方達にあげられるものは金ぐらいでそれ以外のものは今後の私の頑張り次第と言うか……」

 急に自信が無くなってきて、どんどん声が消え入りそうになる。
 こうは言ったものの、私には最早頑張る事しか選択肢が無い。何がなんでも彼等に地位と名誉をあげる、これは決定事項なのだ。
 だがそれでも未来に対して漠然な不安が残るのも事実。本当にやれるのか……そう怖気付いてしまう。
 しかしそんな不安を消し飛ばすように、ディオが歯を見せて笑う。

「じゃあ問題ねぇな。お前等もいいな?」

 ディオがそう聞くと、皆さんは息ぴったりに首を縦に振った。メアリードもルーシアンも、躊躇いながら小さく頷いていた。
 そしてディオは、力強く私の手を握ってきた。

「お前の手を取った事、絶対に後悔させねぇんだろ? 期待してるぜ、王女殿下」
「──っ! えぇ、勿論よ」

 私達は固い握手を交わした。
 これにより、私はついに人の上に立ち人を守らねばならない立場となった。もう、私の命は……私と言う存在は私一人だけのものでは無くなった。
 より一層死ねなくなった。勿論死ぬつもりも殺されるつもりも全く無いけれど、絶対に死ねなくなったのだ。
 私が死ねば彼等の生活も立ち行かなくなる。それではいけない。だからこそ……生き抜いて、彼等に私の手を取ってくれた恩を返していかねば。
 私はまた強く決意する。

「……少しだけ口を挟んでも良いだろうか、アミレス」

 すると突然、成り行きを見守っていたマクベスタがそう口を開いた。
 どうしたのと聞き返すと、マクベスタはディオ達を見ながら言う。

「念の為に彼等の実力を試してみてはどうだ。私兵なのだから、それなりに戦えなくてはならんだろう? ある意味試験のようなものだ。そして、もし良ければその相手はオレにやらせて欲しい」

 マクベスタが瞳に闘志を燃やして提案してくる。腰に佩いた愛剣の柄に手をかけて、真剣な面持ちを作っていた。

「それには俺も賛成だ。俺達の実力を知っといてもらった方がいい」

 マクベスタの提案を簡単に受け入れたディオは、私達をすぐ近くにある空き地に連れて行った。なんでも、ディオ達は鍛錬の際はここに来ているのだとか。
 空き地は普通の一軒家が二〜三軒ほど建てられそうなぐらい広く、地面には土と雑草と小石だけがあった。
 ここで腕試しを行うのだが……じゃあ誰から行く? とディオ達が話し始めた辺りで、マクベスタが真顔でとんでもない事を言い出したのだ。

「全員で同時にかかってくればいい。お前達は個々で戦うより集団で戦う戦法の方が慣れていそうだからな」

 その場にいた全員が耳を疑った事だろう。驚愕で勢い良くマクベスタへと顔を向けた者も何人かいた。
 相手は十一人もいるのに、それを一度に相手するなどと宣うのだ。これには驚きのあまり顎が外れそうになっていた。
 シュヴァルツなんかは楽しそうに腹を抱えて笑っていたけども。