「それでもどうしても貴族が憎いとか、許せないとか、そう思うなら──いくらでも私を憎みなさい。貴族達はどうせ身に覚えが無いとかふざけた事を吐かすでしょうから、貴方達の怨憎が失われないよう、王女として私が矢面になるわ……責任を持って、最後まで貴方達の必要悪でい続けてみせるから」

 私は笑って自分の胸を叩く。嫌われるのにも疎まれるのにも慣れている私こそ必要悪と言う存在に適任だと思うのよね。
 私にだって傷つく心が無い訳ではないけれど……ま、この血筋のおかげでそれなりの鋼メンタルを得られた気もするし、普通の人にやらせるぐらいなら私がやらなきゃね。

「──メアリー、シアン。歳下の王女殿下にここまで言わせて、満足か」

 聞こえてくるものは外の喧騒だけの、静まり返った空間にて。突然、ずっと口を真一文字に結んでいた青い髪の美丈夫が口を開いた。
 ……ん? てかこの二人、私よりも歳上なの? マジですか?
 と変な所で頭に言葉が引っ掛かっていると、彼の言葉にメアリードとルーシアンは涙目で答えた。

「……ぅ……っ、だってぇ……!」
「……僕達、悪くないもん……っ」

 しかし青い髪の美丈夫はそんな二人の態度を許さなかった。

「……王女殿下が寛容な御心で許してくれたのだぞ、それなのに謝罪も無しか」

 今にも泣き出しそうな二人に向けて厳しく告げる。
 だがそれには私も言いたい事があって、空気も読まずに口を挟んだ。

「あの、謝罪はいらないので。二人が言った事は確かに正しい事だし……そりゃあ確かにちょっとはイラッとしたけれど……でも二人に取り立てて責めるような非は無いと思いますよ、私は」
「……本当に宜しいのでしょうか? この二人は王女である貴女様に無礼を働いたのですよ」
「私が無礼と思っていないから問題無いのでは? 公の場ならまだしも、ここはディオの家ですし」

 美丈夫が切れ長の目で私を見下ろす。私は変わらず笑顔で対応する。
 しかしそれも束の間、美丈夫が突然膝を折り目の前で跪いた。私は驚きのあまり、「ぅえっへ?!!」と中々気色悪い叫び声を上げた。
 そして、美丈夫が顔を下げたまま話す。

「……メアリーとシアンを許してくださった事、心より感謝致します。私はイリオーデ、慈悲深き王女殿下に忠誠を誓いたく申し上げます」

 イリオーデの突然の爆弾発言に、その場にいたほとんどの人が口を揃えて叫んだ。

「「「「「はぁっ!?」」」」」

 ……勿論私も叫んだ。何が何だか分からない。
 本音を好き勝手声にしてたら子供を泣かせてしまって、終いには初対面のイケメンに忠誠を誓いたいって言われるとか何それ訳分からん!