「あいつが勇敢に事を押し進めたから俺達はガキ共を助けられたし、クソ野郎を警備隊に突き出して謝礼金も貰えたんだぞ」
「でも王女なんでしょ?」
「僕達の事を下に見てる……と言うか人とも思ってないんだろ」
「おいてめぇ等!」

 ディオがメアリードとルーシアン相手に凄む。それに二人は肩を跳ねさせて怯える様子を見せた。
 私の存在のせいで仲がいい筈の人達に不和が生まれるのは凄く嫌だ。

「ディオ、私は大丈夫だよ。疎まれるのも嫌われるのも慣れてるから」

 私の言葉に、何人もの人が目を見開く。
 しかし今の私にとって、これに対する皆の感想なんてどうでもいい。憐憫も同情もいらない、私は疎まれるのも嫌われるのもどうとも思ってないから。
 スカートを揺らして立ち上がり、メアリードとルーシアンの方へと歩み寄る。

「でも……ろくに私の事を知りもしない人に勝手に判断されるのはとても癪だわ。めっちゃムカつく、何勝手に人の事語ってんだって言ってやりたい。だから私に、ちょっと色々話す機会を頂戴」

 驚くディオの顔を見上げ私はそう頼む。ディオは少し笑った後、「勝手にしろ」と言った。
 ディオの許可も降りた事だ……こうなったらとことん言ってやろう、私の本音を。

「貴方達は貴族が嫌いなのよね? 奇遇だわ、私も貴族って大っ嫌いなのよ。と言うか父と兄がそもそも嫌いだもの」

 王女である私から発せられた父と兄が嫌いと言う言葉……それを聞き、言葉の意味を理解した人達の顔が青くなってゆく。それと同時に少し胸が軋む。謎の痛みに襲われるも、その理由は分からない。
 しかしそれも無視して私は続けた。

「私の事を殺そうとするような家族をどうやって好きになれって言うの? 無理に決まってるでしょ。貴族達だって一部を除いて権力と金に目が無い乞食でしか無いじゃない。生きる為に権力や金が必要なのは分かるけれど、貴族達は執着し過ぎだと思うわ。あんなの砂糖に群がる蟻みたいなものよ。ねぇ、貴方達もそう思うでしょ?」
「えっ?」
「は?」

 突然問いかけられたメアリードとルーシアンは困ったような声をあげた。

「貴族達はね、一度も社交界に出た事も無ければほとんど人前に出た事も無い私の事をさも全部知ってるかのように話すみたいなの。それもね、私の事ならいくら貶しても皇帝も皇太子も何も言わないからってさー……私、一度も出た事の無い社交界で『皇家の恥晒しの野蛮王女』って言われてるのよね。本当にまともな人間なら、皇帝から何も言われないからって王女の事を貶したりしないでしょう?」

 と偉そうに講釈を垂れる私ではあるが、他ならぬ自身もまた噂だけでものを語っているのだ。
 実際に社交界でそれを耳に目にした訳でもないのに……さも被害者のように語る。我ながら本当にろくでもないわね。

「帝国の王女なんて肩書きはハリボテなの。確かに見てくれを取り繕う為の金や権限はあるけれど……実際の私は、皇家からも愚かな貴族達からも見下された出来損ない。いつ皇帝に不要と廃棄されるかも分からないゴミなのよね」

 私は聞いた側がゾッとするような自虐を嬉々として語る。こんな愚痴、普段なら絶対言えないからね。この滅多に無い機会に、こぞって私は今までの不満を爆発させていた。
 そんな私の周りで、絶対にこんな事聞きたく無かったであろう一般市民の皆さんが顔面蒼白で言葉を失っていた。
 ちょっと申し訳ないと思ったけれど、あともう少しだけ喋らせて欲しい。
 実は一番大事な事をまだ言えてないんだ。