「……とにかく敬語とさん付けはやめろ、俺達の寿命が縮むんだ」
「…………分かったわよ。ディオ、これでいいの?」

 ディオさんが何度もそう繰り返すので、私は渋々それに従う事にした。

「おう、それでいい。基本的にはどっちも敬語は無しだ、いいな?」
「別にいいけど」

 ディオ達がほっとしたように大きく息を吐く。
 私はもう名乗ったので、続いてマクベスタとハイラさんの紹介をする事となった。ハイラさんは見た通りのパーフェクトメイドウーマンなので彼等もあまり驚いていなかったが、マクベスタがオセロマイトの第二王子だと告げると、顔を真っ青にしてたまげていた。
 そして肩を小さく震わせながら、

「──王女とか王子が軽率にこんな所に来んじゃねぇーッ!!」

 とディオが声の限り叫んでいた。
 まぁ、私はともかくマクベスタは賓客だからな……暇してそうだったからって連れて来たけれど、本来こんな所にいるはずの無い存在だし。
 だがしかし、これからの事業の事を考えると私が貧民街に来られないというのは些か不便だ。だがディオは貧民街に来るなと言う。ふむ、どうしたものか。

「あっ、そうだ──」

 かっこよく指をパチンっと鳴らし、私はディオ達を皇宮に呼び出すのはどう? と提案しようとした。
 しかしそれはハイラさんによって妨げられる。

「姫様。彼等を皇宮に招くのは不可能ですよ」
「私の心読んだ!?」

 体をひねり、勢いよく彼女の方を振り向く。
 ハイラさんは淡々とした様子でそう話すが、どうして当たり前のように私の思考を先読みしているんだろうか、このメイドは。
 とハイラさんの能力に恐れおののいた所、ディオ達が気が乗らなさそうな顔で呟いた。

「呼ばれても行く訳ねぇだろ、皇宮とか」
「俺達にはちょっとねー……」

 え、来てくれないの……? まぁそりゃあ嫌よね、なんてったって無情の皇帝の家だし……くっそなんで私の父親はあの男なんだ……ッ!
 くぅっ! と奥歯を噛み締めていたら、本日の段取りを把握しているハイラさんが、

「姫様、例の件の方はお話しされなくても宜しいのですか?」

 と重要な件の事を耳打ちして来た。私は「あ」と間抜けな声を漏らしつつそれを思い出す。
 そうだった、ディオ達に話さなければならない事があるんだった。……しかし、それを話すにはまだ人が足りない。

「ディオさ……じゃなくて、ディオ。あの夜貴方と一緒に子供達を逃がしてくれた仲間の人達をここに呼んでくれないかしら?」
「アイツ等をか? 別に構わんが、何でだ」
「皆さんに話したい事がありまして」
「ふぅん。ラーク、頼んだ」

 ディオが投げやりにそう頼むと、ラークは慣れた様子で「はいはい分かったよ」と言って外に出ていった。
 そして暫くして外から賑やかな話声が聞こえてきた。
 ギィッ……と軋む木の音と共に家の扉を開けて、あの夜に見た人達が一斉に顔を出したのだ。