「──姫様、大変長らくお待たせ致しました!」

 ガチャリ、と馬車の扉を開いてハイラさんが現れる。その手には小包があって、ハイラさんはその小包を手渡してきた。
 その中身は丸薬だった。この世界の薬は薬草などをすり潰して練って丸薬にするか、そのまま水で流し込むかの二択。今回はどうやら前者の薬らしい。
 マクベスタへ質問を出来なかったのは残念だけど、まだ余裕もあるし今はとりあえず目の前の事業に集中しよう。
 そう思い、私は一思いに服用する。
 良薬口に苦し。口に入れた途端、物凄い苦味が私を襲う。しかもこの丸薬、そこそこの大きさで簡単には飲み込めない。もたもたしているうちにどんどん口の中が苦味に侵されてゆく……。
 私は急いで手で皿を作ってそこに水を出し、勢いよく流し込む。苦味を消し去る為に早く薬を飲み込めと体に鞭を打ち、なんとか丸薬を全て胃に届けた。
 ふっ……私の魔力が水で良かったわ……。

「ありがとう、ハイラ。これで少しは楽になると思うわ」
「元はと言えば私の責任でございます……申し訳ございません……」

 お礼を言ったのに、ハイラさんは未だにしょんぼりしながら謝罪する。
 これはこのまま放っておくと長くなるやつだな、と何となく察した私は、すかさずハイラさんへと指示を出す。

「それはともかく。目的地まで早く行きましょう? 馬車を出して、ハイラ」
「ですが姫様はまだ体調が…………いえ、御意のままに」

 ハイラさんが渋々馬の元へと行き、程なくして馬車がまた動き出す。
 かなりの安全走行で、先程の乗り物酔いが後を引いてはいたものの、それ以上悪化する事は無かった。
 しかしシルフとシュヴァルツとマクベスタから心配され続けてしまう。一体何回大丈夫と言った事だろうか。
 そんなこんなで目的地に近づく。ゆるやかに馬車が停止したかと思えば、ハイラさんが「地図通りですとこの辺りです」と言って扉を開いた。

「姫様、御手を」
「ありがとうハイラ〜」

 私が貧民街(ここ)で馬車から降りるのが気がかりなのか、ハイラさんはいつも以上に真顔で手を差し出してきた。
 しかし私はそんなこたぁ知らねぇぞとばかりに笑いながら、エスコートを受ける。
 そして、私はついに貧民街に降り立った。当然でありとても失礼な発言だと思うが、皇宮とは雲泥の差がある。皇宮だけでなく、帝都の主要な住宅街ともかなりの差がある街。……本当に帝都の中にあるのかと疑ってしまうような、荒れた街だった。
 馬車から降りた所で辺りをぐるりと見渡す。
 怪訝な目でこちらを見てくる住民の方々。その服はどれもこれも薄汚れていて、ほつれもあるようだった。髪もぐちゃっとしている。
 また失礼だと思うが、古く少々ボロい家屋ばかりが立ち並び、その軒下には枯れた植物や小動物と戯れる住民の方がいた。
 ここは、私が思っていた以上に問題の多い場所のようだった。それもその筈……何故ならここは、歴代皇帝達がどうにかしようとして匙を投げてきた場所なのだから。
 まぁ、それを私がどうにか出来るとは全く思っていない。私には、ほんの少し改善する事ぐらいで精一杯だ。