「──私の名前はアミレス・ヘル・フォーロイトです……今までずっと隠してて、ごめんなさい」

 途端に溢れ出る気品。まさに皇族と言わんばかりの美しいその一連の所作に、誰もが感嘆の息を漏らした。
 まさかスミレちゃんが王女殿下だったなんて、と驚いたが、妙に納得出来た。あの自信や堂々とした態度、大人相手でも臆する事無い勇気……あの皇帝陛下の娘ならば、如何様にも納得出来るというものだ。
 例え王女殿下だったとしても、スミレちゃんはスミレちゃんだ。わたしの憧れの人、わたしの女神様。
 ……ただ、そう思っていても……世間がそれを許してくれる訳が無い。
 それなのにわたしは、また、スミレちゃんと口にしていた。
 怒られて当然の事なのに、スミレちゃんは優しく『なぁに?』と答えた。

「……これからも、わたしは、友達でいてもいいの……ですか?」
「当たり前じゃない。私達は友達よ? ああでも、距離を感じるから敬語はやめて欲しいかな」

 とても自分勝手で分不相応な望みだったのに、スミレちゃんはそれを受け入れてくれた。やっぱり、どんな肩書きや名前だとしてもスミレちゃんはスミレちゃんだった。
 敬語をやめて欲しいと言うスミレちゃんだったが、お父さんから流石にそれは……と言われ、残念そうにその言葉を取り下げていた。
 その後、敬語の代わりと言わんばかりに名前で呼んで欲しいと言うスミレちゃんに押され、わたしはなんと王女殿下直々に『アミレス様』とお呼びする事を許していただけたのだ。
 ……スミレちゃんってもう呼んじゃあいけないのは少し、寂しいけれど……これからはその分本当のお名前で呼んでもいいんだもんね。
 ただわたしがお名前を呼んだだけなのに、アミレス様はとっても嬉しそうに、無邪気にはにかんでいた。その笑顔を見て胸がキュンッとした。
 改めてスミレちゃん──アミレス様とも仲良くなれて喜んでいたのも束の間。楽しい時間はあっという間に過ぎ去ってしまった。
 アミレス様がお帰りになられたのだ。本当はもっとずっと一緒にいたかったけれど……でも、お見送りをした際にアミレス様がまたわたしを抱きしめてくれて、

「また会いましょう、メイシア!」

 そう、まだまだ次があると、わたしに希望を残していってくれたのだ。
 しばらく遠ざかるアミレス様の背中に向けて大きく手を振っていたのだが、突然アミレス様達が走り出した辺りで屋敷に戻った。
 そして侍女達に言われて湯浴みをしたり、着替えたりした後に、わたしはお父さんにここ数日の事を話した。
 ……途中からはほとんどアミレス様の話ばかりしていた気もするけど、別にいいわ。だってアミレス様の話がしたいんだもの!
 お父さんにもアミレス様の凄さと素晴らしさを知って欲しい、そんな気持ちから熱弁したかったのだが、数日間分の疲れがどっと降ってきて、わたしはあっさり眠りについてしまった。