そうやって自分を慰めつつ家に帰ると、門の前で警備のラルがわたしを見るなり騒ぎ出したのだ。その声を聞いて執事長のじぃじも表に出てきた。
 スミレちゃんがわたしにとってもの凄い恩人であるという旨を伝えると、じぃじはとても熱い視線をスミレちゃんに送った後、深々と頭を下げていた。
 そして、スミレちゃんに何かお礼をと家に上がるよう促す。それにはわたしも参戦した。
 そして数日振りに家に入ると……こんな夜遅くだと言うのに、使用人の皆が次々に目尻に涙を浮かべながら姿を現し始めた。
 そしてその中でもひときわ大きな音を立てて駆け寄って来る人がいて──。

「メイシア! 無事で本当に良かった……ッ!!」

 今にも泣き出しそうな弱々しい面持ちで、お父さんが強く抱き締めてきた。
 何度も耳元で繰り返される『本当に良かった』と言う言葉。どうやら、わたしは本当に迷惑や心配をかけてしまっていたらしい。

「……ただいま、お父さん。心配かけてごめんなさい」
「あぁ、おかえり、メイシア。私は……お前が無事で戻って来てくれたのなら、それだけでもう十分なんだ……っ」

 お父さんは怒っていなかった。たくさん迷惑や心配をかけてしまったのに。
 そう、しばらくお父さんと会話をしていると、お父さんの顔がハッと何かを思い出したような表情へと変わった。
 程なくして慌ててわたしから離れ、背を曲げたお父さんが、

「申し遅れました、私はシャンパージュ家当主のホリミエラ・シャンパージュです。この度は行方不明となっていたメイシアを見つけて下さり感謝申し上げます……!」

 と名乗ると、その後司祭様とシュヴァルツくんが次々に名乗った。
 ……しかし、スミレちゃんはその流れでは名乗らなかった。どうしてだろう、とスミレちゃんを眺めていると、目を疑う光景を目の当たりにする。
 ──スミレちゃんの桃色の髪が、透き通るかのような銀色へと移り変わったのだ。まるで水晶のような美しき白銀の長髪に、夜空のごとき寒色の瞳。
 その容姿は、その場にいたわたし達に信じ難い現実を突きつけたのだ。
 何故ならば、それは冷酷無比なる氷の血筋の特徴。スミレちゃんのような心優しき人にはあまりにも合わないものだ。
 だけど。そんなわたしの考えを吹き飛ばすように、スミレちゃんが優雅に一礼した。