「会ったばかりの私に言われても、信用ならないと思うけど……私は、どんな貴女でも好き。本当はとても男らしかったりしても好き。本当はとても腹黒かったとしても好き。例えどんな姿や一面があっても、私はメイシアの全てを好きになるわ。だって、もうとっくにメイシアの事が大好きなんだもの」

 同情や嘘などと疑う余地もないぐらい何度も繰り返される心の籠った『好き』と言う言葉。
 あぁ……この人は、化け物のわたしもニセモノのわたしも魔女のわたしも受け入れてくれた。その上で好きと言ってくれた。
 会ったばかりのわたしにこんなにも温かい言葉をくれたのは、あなただけなの。光の無かったわたしの世界に光をくれてありがとう。希望をくれてありがとう。
 こんなわたしでも受け入れてくれる人がいると教えてくれてありがとう。
 スミレちゃんの言葉を聞いて、視界がまた涙で歪み始めた。心は晴れやかなのに、まるで天気雨のように涙が降る。
 涙を拭おうと左手で何度も強く目元を擦っていると、スミレちゃんが『返さなくてもいいから』と言いながら、ハンカチーフを手渡して来た。
 ……見るからに上質なもの。この滑らかな手触りからして恐らくはリベロリア産の魔絹(シルク)を使った……あしらわれている刺繍もとても精巧で美しく、誰がどう見ても高級なハンカチーフだ。
 帝国貴族と言えどもそう簡単には手に入れられないような、そんな逸品だった。

 スミレちゃんって、もしかしたら物凄い高位の貴族令嬢なのかも……でも前にお父さんに貴族名簿を見せて貰った時、スミレという名前は見かけなかった気が……まぁ、気のせいだろう。わたしの記憶力だって完璧ではないのだし。
 それはともかく。こんな上質なハンカチーフを使ってもいいものなのかと商人の血が騒ぐ。が、スミレちゃんの厚意を無下にしたくなくて、わたしはそっとハンカチーフで目元を拭った。
 そしてある程度拭い終わった後、スミレちゃんの方を向いて、わたしは恥ずかしさから顔に熱を浮かべながら言った。

「……あのね、スミレちゃん。わたしも……わたしもね、スミレちゃんの事が好き」

 そう口にした時、わたしの頬は自然と緩み、口元も柔らかく弧を描いていた事だろう。
 わたしの言葉に感激したように、スミレちゃんが突然熱烈に抱きしめてきたのだが、わたしはそれを喜んで受け入れた。
 そりゃあ、もちろん、少しは戸惑ったけど……それ以上に喜びが勝ったのだ。
 そうやってわたしは、月明かりの下初めての友達と親交を深めていた。
 少しして、わたし達は帰路についた。何やらシュヴァルツくんがスミレちゃんのお家にお邪魔する事になったようで、また羨ましいと思ってしまった。
 でもいいもん、わたしがスミレちゃんの初めての女友達だから。