それから少しして、スミレちゃん主導で作戦会議をする事になった。ナナラちゃんとユリエアちゃんがこの建物の構造を大まかにだけれど把握していたから、それを元に地面に地図を描いたりしていた。
 更に、男の子……シュヴァルツくんがいい提案をしたようで、スミレちゃんは「そうするね」と微笑んでいた。
 ……わたしだけ、何の役にも立てていなかった。皆何かしらの事でスミレちゃんの役に立っているのに、わたしだけ何もせずただ座って話を聞いているだけだった。
 人を傷つける事以外には何も出来ないこんな自分に、酷く苛立っていた。失望していた。希望をくれた彼女の役に立ちたいと思うのに、何も出来ない事がもどかしくて仕方なかった。
 そうやって己の不甲斐なさを悔いていると、いつの間にかスミレちゃんが檻から出ていた。どうやって鍵を開けたのか全く分からなくて困惑するわたし達に、スミレちゃんは柔らかい笑顔で、

「……とりあえず、巡回の人達の事もあるから一度鍵をかけておくわね。後でまた、開けるから」

 と、告げてから通路の途中にある物陰に身を隠した。
 シュヴァルツくんの提案に従い、夜の巡回の人達を仲間に引き込む為らしい。
 なんて言う風にぼーっと彼女を眺めていたら、忽然と姿を消してしまったのだ。
 一体どういう事なの、とナナラちゃんとユリエアちゃんと慌てたようにひそひそ話をしていると、丁度良く夜の巡回の人達がやって来た。
 しばらくしてその人達が帰ろうとした際、空中に突然スミレちゃんが現れ、その直後には眼帯をつけた人の大きな背中に飛び蹴りを食らわせていた。
 蹴られた勢いで地面に倒れ込み、痛そうに背中を摩る眼帯の人に向かって、スミレちゃんは真剣な面持ちで高らかに声を上げて告げた。

「──子供好きのお兄さん。ここにいる子供達全員を助ける為に、私と取引しませんか?」

 大人相手にも物怖じせず、勇猛果敢に物事に取り組む彼女の姿がどれ程わたしの目にキラキラ輝いて見えた事か。
 本当に勇者のようで、とてもかっこよかった。
 取引の結果は成功。スミレちゃんは見事夜の巡回の人達(と、その仲間)を協力者として計画に引き入れる事に見事成功していた。
 大人の協力を得られた事によってより現実味を帯びてきたこの計画に、その取引を固唾を呑んで見守っていた子供達は飛び跳ねて涙を浮かべながら喜んでいた。
 するとスミレちゃんは一つずつ檻を開けていった。その時、真っ先にわたし達のいる檻を開けて、スミレちゃんは「おいで」と手を差し伸べてくれた。
 わたしの義手が怖くないの? と思いながらも、スミレちゃんが何も気にせず本当に手を差し伸べてくれたのが嬉しくて……それで、わたしはその手を取ろうとしたの。
 でも、わたしがその手を取る直前。シュヴァルツくんが「どぉーんっ!」と叫びながらスミレちゃんに飛びついたので、わたしはスミレちゃんの手に触れる事が叶わなかった。
 むぅ……と少しキツい視線をシュヴァルツくんに向けてみたのだが、シュヴァルツくんはそんなの気にもとめずスミレちゃんとじゃれあっていた。
 ……別に羨ましいとか、そんな事、思ってないもん。そもそもスミレちゃんとは会ってまだ数十分とかだもん、そんな、嫉妬とか全然……。
 じっとスミレちゃん達を見つめていたその時、シュヴァルツくんがようやくこちらに気づいたようで、子供達に静かにするよう促すスミレちゃんから離れ、わたしの方まで駆け寄ってきた。